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VRを利用した慢性疼痛管理プログラム
サンフランシスコを拠点とするKaruna Labs(以下、Karuna)は9月10日、シード投資ラウンドにおいて300万ドルを調達したと発表した*1。同投資ラウンドは同じくサンフランシスコを拠点とする投資会社、Baseline Venturesが主導、Anorak Venturesなど5社が参加した。
Karunaが提供するのは「Virtual Embodiment Therapy」と呼ばれる、没入型バーチャルリアリティ(immersive VR)技術を用いて脳を再訓練することで、患者個人に合わせた機能回復と慢性疼痛管理を行うためのプログラム。運動イメージング、バイオフィードバック、疼痛心理学、運動療法を基盤としてデザインされたプログラムが、脳の感覚運動野における不調和や痛みに対する恐怖由来の行動を「矯正」する。
具体的には慢性疼痛を抱える患者がヘッドセットを装着、VRの世界の中に没入して脳をトレーニングする。VRヘッドセットの画面にはKarunaのソフトウェアによって患者自身の姿が映し出されるが、このVR映像はトレーニングにおける患者自身の「実際の動き」とシンクロしない。つまり、VR映像は、患者の実際に動作とまったく同様に動く場合もあるが、「より激しく」または「より少なく」動いたり、全く別の動きをする姿がVR映像に映し出される仕組みになっている。
Virtual Embodiment Therapyは、よく知られた神経可塑性とよばれる、「経験により脳内における神経ネットワークが変化し続ける」という現象を利用した治療方法である。神経系では、「反復される情報」を伝える神経細胞体は多くなり、伝える神経突起は太くなって刺激が正確に早く伝わるように変化する。
患者が慢性疼痛を感じ続けた場合、筋肉を鍛えるとその筋肉が発達するように、痛みを伝達する神経ネットワークが発達してその痛みの感じ方も強くなる。Karunaの方法ではこのプロセスをVRによって逆戻りさせることで、これまで痛みを伴っていた動作を、「痛みを引き起こすものではない」と認識できるようにしたり、痛みを和らげて健全な神経系を活性化させる。
患者イメージを投影する運動プログラムのほかにも、射撃やボール遊びなどのVRゲームを介したエクササイズ・プログラムが用意されている。
この疼痛管理プログラムであれば、社会問題になっている鎮痛剤オピオイドや高額な手術が不要である。対象となる疼痛は、腰痛、肩や首の痛み、脳卒中関連の痛み、局所疼痛症候群、術後の痛み、神経障害性疼痛、幻肢痛など。
調達した資金は、臨床検証やさらに開発を進めるために使用されるが、その一環として、同社技術チームに新たにChief Medical Officerとして、医療のエキスパートJames Petros博士、およびChief Technology Officerとして、ゲーム業界のエキスパートAndy Riedel氏を迎えた。
(了)
本記事は公式発表を翻訳要約し、適宜解説を加えたものである。
*1
https://www.prnewswire.com/news-releases/karuna-labs-secures-3-million-in-seed-funding-hires-top-medical-and-tech-talent-to-further-treatment-of-chronic-pain-with-vr-300914512.html
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