2019/07/09

米国eHealthジャーナル試読版

Pear Therapeutics、MS患者のうつ症状を適応症とするDTxの試験開始

多発性硬化症(MS), 精神疾患, Pear Therapeutics, 神経変性疾患, デジタルセラピューティクス

Novartisとの提下で

Digital Therapeutics(DTx)におけるパイオニア企業のPear Therapeuticsは5月3日、多発性硬化症(MS)患者におけるうつ症状の治療を適応とするDTx候補、Pear-006についてフィージビリティ・スタディーを開始したと発表した。

Pear Therapeuticsは、Pear-006の共同設計と開発、および統合失調症治療用DTx候補の臨床開発を目的として2018年3月にNovartisと提携している。Pear Therapeuticsによると、Pear-006はMS治療薬との併用を意図している。DTxの正式な定義はなく、「患者の行動変容」を生み出すことで治療効果を狙っているものが多数といってよい。

DTxはバズワードになりつつあり、疾病管理アプリ企業が自らをDTx企業と再定義することもある。治療効果に対するエビデンスの構築を目指す疾病管理アプリ開発企業は、DTx企業と考えて差し支えないだろう。DTx開発企業は通常、アプリやソフトウェアが医療機器としてFDA承認を受け、保険償還の対象となることを目指すため、臨床試験を実施してエビデンスの構築に努める。

2017年10月に設立されたデジタルセラピューティクス業界団体のDigital Therapeutics Alliance(DTA)によると、DTxとは「疾病の予防、管理、治療を目的としたソフトウェアが牽引するエビデンス・ベースの治療介入」を言う。

DTAの創設メンバーは、呼吸器疾患患者向けのスマート吸入器を手掛けるPropeller Health(2018年12月にResMedが買収)、糖尿病管理プログラムを手掛けるWellDoc、Voluntis、ビデオゲームを使った脳機能改善のアプローチを開発するAkili Interactiveだ。Akili Interactiveと塩野義製薬は今年3月、デジタル治療用アプリAKL-T01とAKL-T02の導入に関して提携合意を結んでいる。DTAは2018年5月、DTAの新規メンバーとしてPear Therapeutics、Bayer、Big Health、Cognoa、Kaia Health、Merck、Omada Health、Otsuka America Pharmaceutical、Sanofiが加わったことを明らかにし、大手製薬企業も加わる組織となった。

Pear Therapeuticsは、薬物あるいはアルコール中毒患者の治療を適応に2017年9月にFDA承認を獲得した「reSET」、オピオイド使用障害(OUD)患者による外来治療プログラム継続率の向上を目的に2018年12月にFDA承認を受けた「reSET-O」を持つ。

「reSET」と「reSET-O」はいずれもコミュニティ強化(community reinforcement)とよばれる認知行動療法を採用するスマートフォンアプリで、購入には医師の処方箋が必要となる。両製品の米国での販売はNovartisの子会社Sandozが手掛けている。Pear Therapeuticsによると、疾患治療を目的に処方箋が必要なDTxがFDA承認を獲得したのは「reSET」が初めて。

「reSET」は、安全性リスクが低~中程度で、実質的に同等な製品が存在しない革新的医療機器に使用されるデノボ(de-novo)承認審査経路を利用して承認された。FDA承認の根拠となったのは、薬物あるいはアルコール中毒患者399名を対象に、対面カウンセリングによる標準治療群と、対面カウンセリング回数を減らしリセットを利用する群を比較した無作為化試験。結果、リセット群で標準治療群の2倍以上の自制効果が確認された。

510(k)申請経路により承認された「reSET-O」は、buprenorphineなどの治療薬や随伴性マネジメントとの組み合わせで使用される。随伴性マネジメントとは、望ましい行動変化に対し即座に報酬を与えることで、その行動の繰り返しを促す治療法。

中毒治療などに用いられる。「reSET-O」の承認の根拠となったのは、OUD患者を対象にした12週間の非盲検臨床試験の結果。同試験では被験者170名を、buprenorphine投与に加えて尿検査を週3回行い、検査結果が陰性だった場合に報酬を与える随伴性マネジメント・システム群(対照群)と、これに「reSET-O」のデスクトップ版を併用する群に分けた。

その結果、試験期間中の違法薬物使用量は両群で差がなかったが、治療プログラムを継続した被験者の割合は「reSET-O」併用群で82.4%と、対照群の68.4%と比べ統計的に有意に高かった。Pear TherapeuticsのDTxは、医薬品の競合というより、既存治療へのアドオンとしてその効果を高める役割を果たすものと説明されており、Pear TherapeuticsではこれをeFormulations と呼んでいる。Pear Therapeuticsは、医薬品とソフトウエアを併用するeFormulations についてパテントを取得している。

まるで製薬企業のパイプラインのようなPear Therapeuticsの開発パイプライン

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(出典 Pear Therapeutics)

(了)


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