2022/07/26
米国eHealthジャーナル第69号
Capital Rx、シリーズC投資ラウンドで1億600万ドルを調達
VC投資・M&A・決算, ジャーナル第69号, Capital Rx, 薬局
薬剤給付ソフトウェア・プラットフォームの「JUDI」
スタートアップ薬剤給付管理会社(PBM)のCapital Rxは6月13日、シリーズC投資ラウンドで1億600万ドルを調達したことを明らかにした。B Capitalが主導した同ラウンドには、General Catalystのほか、Capital Rx の既存投資家であるTransformation Capitalと Edison Partnersも参加した。今回のラウンドを含め、Capital Rxのこれまでの調達額は1億7,500万ドルとなった。
PBMは、処方箋医薬品の給付サービスを民間保険会社に代わって行う米国特有の中間業者で、製薬企業との医薬品価格交渉(リベート交渉)や薬局に対する保険償還業務を担っている。PBMの業務は、患者による薬局や処方箋医薬品の選択、また支払い額にも大きな影響を与えており、その意味で市民の生活に密接に関与しているものの、B to Bに特化し、米国ヘルスケア産業における裏方として機能していることから、PBMの存在を市民が感じる機会はほとんどない。PBMの業務の多くは、取引先(民間保険会社や製薬企業、小売薬局など)との不明瞭な契約関係に基づく非常に複雑なもので、第3者が理解することは困難だ。商慣行に不透明な部分が多いことから、「ブラックボックス」だとも揶揄されており、米国の医薬品価格高騰の一因であるとの声もある。
Capital Rxは、処方箋医薬品の価格や調剤の在り方に変革をもたらす次世代PBMとなることを掲げ2017年に設立されたスタートアップ企業で、雇用主や保険プラン、地方政府、労働組合など、同社顧客であるペイヤー(保険者)に対し、薬剤給付ソフトウェア・プラットフォームの「JUDI」を提供している。JUDIは、事前承認(PA)などの医薬品使用管理ツールの設定を含む薬剤給付プランの構築と実行のためのツールや、保険請求処理と薬局償還手続き、被保険者への請求など、薬剤給付に関わるあらゆる業務を単一のプラットフォームで実行できるクラウド基盤のシステム。PAとは、保険償還の条件として、処方箋の交付前にペイヤーから事前の承認を得ることを要請する医薬品使用管理ツールで、米国では特に高額な処方箋医薬品において一般的に設定されている。
Capital Rxは米国内で最も急速に成長しているPBMであり、2020年には400%、2021年には200%の成長を遂げた。 コマーシャル市場担当のPresidentであるMatt Gibbs氏は、2022年末までにCapitalRxは、100万人近くの人々に薬剤給付サービスを提供すると予測している。
出典:Capital Rx
Capital Rxは2019年9月に、「Clearinghouse Model」と同社が呼ぶ新規の医薬品償還価格設定フレームワークを発表。このモデルでCapital Rxは、コンサルティング会社Accentureが開催する 2020年のAccenture Healthtech Innovation Challenge で優勝している。
PBMによる小売薬局への費用償還は通常、医薬品の「実勢価格」ではなく、製薬企業が自由に設定することが可能なリストプライスに基づき決定されているが、Capital RxのClearinghouse Modelでは、「全米平均医薬品購入コスト(National Average Drug Acquisition Cost、NADAC)」に基づいて個々の医薬品の実際のコストを算出する。Capital Rxによると、このモデルに移行した顧客(ペイヤー)は、薬剤給付費用を平均で27%節減できるという。NADACはメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)によって管理・更新されている医薬品価格のデータベースで、小売薬局から任意の聞き取り調査を行い、薬局の医薬品請求データから得た実際の購入コストである「平均購入コスト(Average Acquisition Cost、AAC)」が収載されている。
Capital Rxは、処理された処方箋保険請求ごとに定額のサービス料金を顧客から徴収するが、通常のPBMが従来的に行ってきた、リベート交渉やスプレッド・プライシングと呼ばれる行為は行わない。スプレッド・プライシングとは、実際の薬局への医薬品償還価格よりも高く、つまり利益を上乗せしてPBMがペイヤーに請求することを指し、近年問題視されているPBMの行為の1つである。
Capital Rxでは、すべての処方箋医薬品について「実勢価格」を反映した透明性の高い契約を顧客に提供しており、全ての顧客に同一の医薬品価格が適用されるという。新興のPBMであるCapitalRxは、処方箋医薬品の価格設定プロセスにおけるブラックボックスをこじ開けようとしている。
(了)
本記事掲載の情報は、公開情報を基に各著者が編纂したものです。弊社は、当該情報に基づいて起こされた行動によって生じた損害・不利益等に対してはいかなる責任も負いません。また掲載記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
Copyright © 2022 株式会社シーエムプラス LSMIP編集部
連載記事