2022/07/26

米国eHealthジャーナル第69号

台湾のAESOP社、臨床文書改善(CDI)ツール「DxPrime」をリリース

台湾, AI技術, 患者データ・疾病リスク分析, ジャーナル第69号, 医療コミュニケーション支援, Aesop Technology

コーディング・処方の入力ミスを防止する医療用AIシステムを開発

台北医学大学(TMU)からスピンオフして2019年に創業したAesop社 (Aesop Technology Inc.) は、機械学習や医療ビックデータなどを利用した医療システムを開発しているが、2020年に神戸市と500 Startupsが共同実施したアクセラレーションプログラム「500 Startups Kobe Accelerator」の17社に選出されたことでも知られ、台湾で最初のヘルスケアAIユニコーンになることが期待されている一社だ。

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「DxPrime」 コーディング入力支援

Aesop社は6月1日、医療データ入力のサポートツール「DxPrime」がデジタルヘルスのマーケットプレイス「Olive Library」で利用できるようになったことを発表した。医師や医師事務作業補助者(医療クラーク)、臨床文書改善(CDI: Clinical Document Improvement)チームが利用する「DxPrime」は、医療コーディングの記載漏れや誤りと思われる箇所を洗い出し、数回クリック操作するだけ修正出来るようになるというものである。

医療文書の完全性、正確性、有効性が、すべての医療関係者にとって重要であることは言うまでもなく、臨床文書の改善は多くの医療機関にとって最優先課題の一つであると認識されてきた。例えば、診断など医療記録が正しくなければ、患者が受けるケアや退院指示が最適なものでなくなるおそれがある。また、医療機関としても、入院期間の見積もりや保険金請求のコード化に支障を来し、償還拒否や収益減へ発展しかねないことが問題視されてきた。例えば入院患者の請求の約10%が償還拒否されるなど、無視できない損失をもたらすケースの多くは、請求プロセスの上流で発生する患者記録の誤りが原因で発生している。


医療文書は発生源入力という考え方に基づいて、医師が行う一方で、優れた患者ケアを提供するために学ぶ必要のある臨床知識と、医療文書の入力やコーディングシステムの知識は異なるため、医師が診断入力ミスを回避することは困難である。特に現代医学は複雑さを増しており、国際疾病統計分類 ICD-10 の第10版では、基本分類に14,400のコードが含まれ、さらに68,000の診断コード(ICD-10-CM)と87,000の手続きコード(ICD-10-PCS)に分類されている。そのため、尿路感染症や呼吸不全のような合併症は、コーディングから漏れがちであった。

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出典:Shutterstock

「DxPrime」は、32億人の患者のデータセットに基づいてトレーニングされた機械学習モデルに基づき開発された。「DxPrime」の導入で、入院患者1人あたりの収益が5〜10%増加した医療機関の事例もあり、Olive Libraryへのリリースが医療機関による導入を大きく後押しするものと想定されている。

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有害事象の予防に向けた投薬ミスの削減に取り組む「MedGuard」

「DxPrime」に先立ち、Aesop社は投薬意思決定支援ツール「MedGuard」を開発している。「MedGuard」は、AESOP (Ai-Enhanced Safety of Prescription) の社名の由来通り、処方箋のパターンを使用してAIが患者のデータを分析し、診断と一致しない可能性のある不適切な処方箋にフラグを立てるものである。

投薬ミスは増大する財政的および医療的負担となっており、米国だけで年間約200億米ドルの経済的コストが発生し、25万人以上が死亡している。処方、調剤、投与、および監視を含む投薬プロセスのいずれの段階でも発生する可能性があるが、全体の50%を占めるのが発生源での処方ミスによるもの。そのため、医師に十分な情報を提供し、より適切な意思決定を行うために、より正確な提案とアラートを通じて投薬ミスを減らすことを目指している。

台湾では1995年に開始された国民健康保険制度の下、全国民が加入を義務付けられる社会保険方式でユニバーサルケアが提供されている。医療情報の共有に向けて、最新のクラウド医療情報技術を積極的に採用しており、台湾のデジタル担当相 オードリー・タン氏が、新型コロナウイルスの封じ込めに向けて、マスクのリアルタイム在庫情報のアプリや実名制での購入制限などが実現する基礎となったことでも知られる。


殆どの医療機関が利用する2013年に構築されたMediCloud Systemは、処方時に薬歴を確認することで、医療機関を跨ぐかたちでの多剤・重複投薬や相互作用等をチェック・防止する仕組みを持っているが、Aesop社の狙いは各医療機関内での処方ミス防止にある。
Aesop社モデルは、機械学習の連合学習(FL)で開発され、台湾―米国など国際間での移転可能性が実証されていることから、提携する米国内の医療機関でも導入実績を積み重ねてゆくことが期待されている。


出典:Aesop

(了)


本記事は以下の公式発表を翻訳要約し、適宜解説を加えたものである。


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