2019/08/13

米国eHealthジャーナル 第1号

Nebula Genomics、EMD Seronoと提携

患者データ・疾病リスク分析, ジャーナル第01号

 
 

匿名化ゲノムデータを活用して、創薬研究を加速化

マサチューセッツ州ボストン拠点の
Nebula Genomicsは6月11日、肺癌研究パイロットプログラムの実施を目的としてドイツ企業Merck KGaAの子会社であるEMD Seronoと提携したと発表した。合意の下EMD Seronoは、Nebula Genomicsが保有する匿名化ゲノムデータを活用して、創薬研究の加速化を目指す。Nebula Genomicsが製薬企業と提携するのは今回が初となる。

Harvard Universityのスピンアウト企業であるNebula Genomicsは、消費者直販(Direct to Consumer、DTC)の遺伝子検査キットを販売している。同社は、23AndMeやAncestry、MyHeritageなどの企業の競合にあたるが、全ゲノムを解析する点と、ブロックチェーン技術を使ってデータを保管する点で、競合が提供する既存サービスとは異なる。

多数のユーザのゲノム情報を含むデータベースを、製薬企業による新薬開発に役立てるビジネスは、23andMeなどの他のDTC遺伝子検査企業も行っており、匿名化されたユーザのデータを企業に提供している。この場合、ユーザに自身のデータをコントロールする権限はない。
一方、Nebula Genomicsはブロックチェーン技術を利用することで、ユーザにデータのコントロール権を与えている。データは暗号化されており、Nebula Genomicsでも解読は不可能だという。研究者らがデータにアクセスしたい場合、ユーザは誰が何の目的でデータを利用するのか確認した上で承諾か拒否をすることができ、承諾の場合には報酬を受け取れる仕組みとなっている。
Nebula Genomicsの共同設立者で、Harvard University医学部教授の遺伝子学パイオニアであるGeorge Church博士は、「Nebula Genomicsは、遺伝子データを買いたい組織と、売りたい個人を結びつける、いわば、AirbnbやUberのようなマッチングシステムだ」と話す。



 

 


Nebula Genomicsは当初、ユーザが自分の遺伝子情報を仮想通貨を使って取引できるシステムの構築を掲げ、大いに注目を集めた。2018年8月には、Khosla Ventures、Arch Venture Partners、Fenbushi Capital、Mayfield Fundなどが参加したシリーズA投資ラウンドで430万ドルを調達している。Nebula Genomicsは、「トークン経済」の仕組みを使って、ゲノムデータのやり取りに流動性を持たせることを掲げたが、現時点では、ギフトカードなどと交換できるクレジットをユーザに付与する仕組みが取られている。

(出典)Nebula
 
Nebula Genomicsの遺伝子検査キット「Nebula Sequencing」は99ドルで、唾液採取キットに自分の唾液を入れて返送すると、解析結果が送られてくる。祖先のルーツに関する情報のほか、健康や栄養、ダイエットなどに遺伝子が与える影響、口腔内マイクロバイオームの解析結果を知ることができる。
毎月6.99ドルを支払うサブスクリプションモデルの「Nebula Explore」を選ぶと、テーラーメイドのアップデートや、臨床研究参加への優先的アクセスを得ることができる。

Nebula Genomicsが行う全ゲノム解析は、23AndMeなどが行っている「ジェノタイピング(genotyping)」よりも多くのデータを研究者たちに提供することができるが、現時点では医療レベルのゲノム解析ほど詳細ではないという。Nebula Genomicsでは、医療レベルのゲノム解析を近々実施したい考えだ。
 

(了)


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