2022/12/13

「知的財産」解説シリーズ 連載第3回

解像度の高いヘルスジャーニーを描き、人を巻き込む仕掛け

デジタルセラピューティクス, 知的財産権, ジャーナル第78号

- 習慣化アプリ「みんチャレ」の特許を事例に -

 本連載では、デジタルセラピューティクス(以下、DTx)の技術動向について、各国の特許庁が公開している知財情報に基づいて紹介する。前回は患者のヘルスジャーニーを切り口として、DTxの技術動向を概観した。

連載記事
第1回 知財情報から眺める「DTx関連技術の全体像」
    - CureApp社とサスメド社の特許を事例に -
    https://www.lsmip.com/article.html?id=6796
第2回 「DTx」と「オンライン診療」の連携が目指すヘルスジャーニーの最適化
    - Teladoc Health社の特許を事例に -
    https://www.lsmip.com/article.html?id=6977

 連載第3回となる今回は、エーテンラボが提供する習慣化アプリ「みんチャレ」に関する特許(WO2021090452)の内容を通じて、過去2回で提示した視野をさらに広げていきたい。

1. みんチャレが描く「生活習慣形成のヘルスジャーニー」

 みんチャレは、継続的に運動したい、毎日の睡眠時間を記録したい、といった生活習慣をユーザーが形成するサポートを行うアプリである。みんチャレでは、同じ生活習慣を形成したいユーザーがチームを組み、今日歩いた歩数など、生活習慣に関わる情報をお互いに投稿することで生活習慣を形成していく。

みんチャレ Medical | A10 Lab より引用。
みんチャレ使用で目標歩数の達成率・平均歩数が非使用の場合と比べ、2倍の有意差があったとのこと。

 下記の図はエーテンラボのプレスリリースから引用したみんチャレユーザーのヘルスジャーニーを描いた図である。習慣形成を始める前(準備期)から習慣形成の実行中(実行初期~実行後期)、形成した習慣の維持(維持期)の全ての段階で、みんチャレの機能が網羅的にユーザーをサポートしている旨が見て取れる。

 みんチャレの「チーム制」の効果を強調するため、自分及びチーム以外の要素(家族や医師、本記事で後述する企業との関わり等)が詳細には記載されていないが、DTxの提供企業が患者のヘルスジャーニーを解像度高く描き、自社が提供するDTxの各機能がヘルスジャーニーのどこをサポートしているかをしっかり意識する重要性が分かるだろう。

2. 「同じ課題を抱える人」を患者のヘルスジャーニーに巻き込む

 エーテンラボの特許(WO2021090452)には、「ユーザは、複数のユーザ間で共通の目標を有するチャットコミュニケーションを可能とするユーザグループにおいて、目標実現のためにお互いにコミュニケーションを図りながら、(略)無理なく生活習慣に関する情報を継続的に取得し、履歴を取ることができる。(段落0041)」との記載がある。

 第1回の記事では患者とDTxがやり取りを行う特許について紹介し、第2回の記事では患者が医師や家族とコミュニケーションを行う窓口をDTxが担う狙いについて言及した。エーテンラボの特許では、それに加えて、同じ課題を抱える人同士のチャット機能をアプリで提供し、患者の情報を無理なく継続的に取得する旨が書かれている。

 加えて、ユーザ間のチャットを通じて取得した情報を解析して、患者の目標達成に向けた指導やアドバイスを行う旨も特許に記載されている(段落0051参照)。取得した情報の分析は、それこそDTxが最も得意とするサポートの1つと言える。

3. 「患者をサポートする企業」もヘルスジャーニーに巻き込む

 当該特許には、法人ユーザが習慣形成のチームを生成できる旨が書かれている(段落0037参照)。各企業は自身が提供する製品やサービスを広告するためにチームを生成し、習慣形成を目指す患者の参加を促すことができる。ここで重要なのが、各法人が提供する製品やサービスは、例えば食事記録アプリや運動記録アプリなど、患者の習慣形成の助けとなるものということである。

WO2021090452・図7(b)より引用。
上部の公式チャレンジには、食事記録アプリの「あすけん」やヘルスケアアプリ「dヘルスケア」など、
企業が提供するアプリを活用した習慣形成チームが並ぶ。

 第2回の記事では、DTxはそれ自体で患者のサポートを完結できるものではなく、ときに家族や医師の介入が必要である旨を紹介した。エーテンラボの特許に記載されている機能は、家族や医師だけでなく、患者にとって有用な企業をも巻き込んでいく内容となっている。

 また、当該特許内には明記されていないが、この機能を通じて企業が支払う広告費は、みんチャレの運営費用として使用されると考えられる。ユーザー(患者)の負担を抑えつつ、DTxを持続的に提供するという観点からも重要な機能と言えよう。

4. まとめ

 今回の記事では、連載の第1回・2回の内容で紹介したステークホルダーやヘルスジャーニーの考え方について、エーテンラボの特許を通じて異なる視野を提示した。

 最終回となる第4回では、DTxを支える裏側の技術について、DTxの開発プラットフォームに関連する特許を見ながら検討していく。

(了)

※ ※ ※ ※ ※

[ 編集部から ]
連載第4回は、1月10日(火) の掲載を予定しております。


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