2023/01/10
「知的財産」解説シリーズ 連載第4回
DTxの裏側を支えるDTx開発プラットフォーム
ジャーナル第80号, デジタルセラピューティクス, 知的財産権
-サスメド社の特許を事例に-
本連載では、デジタルセラピューティクス(以下、DTx)の技術動向について、特許庁が公開している知財情報に基づいて紹介している。最終回となる今回は、DTxの裏側を支える様々な技術について、サスメド社の特許を題材として紹介し、最後に本連載の総括を行いたい。
連載記事
第1回 知財情報から眺める「DTx関連技術の全体像」
- CureApp社とサスメド社の特許を事例に -
https://www.lsmip.com/article.html?id=6796
第2回 「DTx」と「オンライン診療」の連携が目指すヘルスジャーニーの最適化
- Teladoc Health社の特許を事例に -
https://www.lsmip.com/article.html?id=6977
第3回 解像度の高いヘルスジャーニーを描き、人を巻き込む仕掛け
- 習慣化アプリ「みんチャレ」の特許を事例に -
https://www.lsmip.com/article.html?id=7127
1. サスメド社のDTx開発プラットフォーム
サスメド社は、DTxの開発を効率化するプラットフォーム「QDTx」を開発し、製薬企業等とのDTx開発を効率化している。
サスメド社は、治療用アプリ開発プラットフォームを活用することで、複数のDTx開発を並行して行っている。DTxには治療の対象となる疾患に特有の機能も必要となる一方で、複数のDTxに共通する機能も存在する。そのような機能をいち早く特定し、DTx開発を支える技術として蓄積していくことが、今後のDTx開発の鍵の一つと言えよう。
DTx開発を支える技術として本連載の初回記事では、DTxの被験者適格性に着目した特許を紹介したが、今回は別の視点からDTxの開発を支える技術を紹介する。
2. 被験者のランダム化&二重盲検化の支援
1件目の特許は、DTxの治験を行う際のランダム化及び二重盲検化を支援する内容である。ランダム化及び二重盲検化の効果については、当該特許に記載の内容を引用する。
(治験において)患者が薬を使用し症状改善が見られた場合には、その原因としては、その薬自体による治療効果のほかに、疾病の自然経過、試験に参加していることによる効果、診断・評価の主観的要素などの様々な要素も要因として加わってくる。これに対し、ランダム化および二重盲検化の下でプラセボ対照試験を行うことにより、治験薬作用以外の全ての潜在的な影響をコントロールすることができる。(段落0005)
この特許では、被験者の情報をサーバに入力した後、各被験者はランダムに治療群と対照群とに割り当てられる(ランダム化)。全ての被験者は同一の治療用アプリをインストールするが、治療群と対照群との割り当てに応じて、当該アプリの動作モードが自動で切り替わる。被験者が治療群か対照群かは、アプリのみが認識できる状態で共有されるため、被験者は自分が治療群か対照群かを知ることはない。また、被験者を観察する医師も各被験者が治療群か対照群かを知ることはない(二重盲検化)。
3. データ改ざん等の不正検知
次に紹介する特許は、治療記録などの改ざんを検知する内容である。図中にある不正検知装置は、治療記録などの記録状況を分析し、異常が発生した場合に不正が発生したと判断する(例えば、記録の回数が急激に増えた場合などに異常が発生したと判断する)。
DTxは、ユーザーから得た情報に基づいてユーザーに適切な治療を提供する。つまり、データ改ざん等が発生した場合、ユーザーに適切な治療を提供できない可能性がある。本特許の内容は、治験の適切な実施にとどまらず、実際にDTxが医療現場で使われるようになった後にも有用な技術となっている。
4. まとめ
DTxを用いた治療は、医薬品による治療とは異なる面が多数存在する。例えば、医薬品を使用した治療において患者の情報を得る機会は一定間隔をおいて行われる医師の診療時に限られるが、日常的に患者と接点を持つDTxでは患者の情報を得る機会が格段に多くなる。そのような医薬品とDTxとの間に存在する無数の違いに対して、DTxならではの課題を見つけ出し、その解決策を模索していくことが、DTxの今後の進歩にとって重要となる。
今回の全4回の連載では、公開された特許情報を通じて、DTxの技術動向の紹介を試みた。特許情報は、各企業(出願人)が、自身が重要と考える課題とその解決策を記載した有益な技術資料である。各社が出願した特許の情報は一定期間を経て順次公開されていくため、その情報の蓄積はDTxのトレンドを追いかける上で極めて重要となる。今後の情報収集の参考に、本連載の内容が少しでもお役に立てば幸いである。
(了)
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