2023/02/14
米国eHealthジャーナル第82号
うつ症状のセルフ管理にチャットボットが有用
Twill (Happify Health), 医療コミュニケーション支援, Woebot Health, 研究・調査, ジャーナル第82号, Wysa, 精神疾患
シンガポールのNanyang Technological Universityの研究
Journal of Affective Disordersに12月15日付で発表された研究論文「Evaluation of chatbot-delivered interventions for self-management of depression: Content analysis」は、うつ症状のセルフ管理におけるチャットボットの有効性を示唆している。シンガポールのNanyang Technological University医学部の臨床医らが主導した新しい研究は、9つのチャットボットアプリを対象として、ユーザーとチャットボットとの会話を検証したもの。9つのチャットボットアプリのうち、Marvin、Serenity、Woebot Health、7 Cupsは無料で提供されており、Twill(以前の名前はHappify Health)、InnerHour、Wooper、Wysa、Tomoのアプリはサブスクリプションベースで提供されている。 いずれのチャットボットも、50万回以上ダウンロードされている主要アプリである。
研究班は、文化、年齢、性別、うつ症状の重篤度などがそれぞれに異なる複数の患者シナリオを作成し、それを用いてアプリの評価を行った。具体的には、チャットボットの応答の質および有効性、うつ病のセルフ管理支援における個別化と適切さのレベル、そしてユーザーへの共感の伝え方を評価した。また、気分を上向きにさせるアクティビティの開始と完遂に向けてどうやってユーザーを誘導したか、そして、気分のモニタリングと自殺リスクの管理をいかに行ったかについても観察した。
その結果、これらのチャットボットは、ユーザーを励まし、育て、やる気を起こさせる「コーチ的」な側面を示していた。ユーザーとの会話は、批判のない共感的なものであり、心理学者やカウンセラーがよく使う心理療法学的なエクササイズを通じて、サポートやガイダンスを提供していた。また、チャット履歴やユーザーの名前、住所などの個人情報を保存したり転送したりすることはなく、機密を保持した。
しかし、これらのチャットボットは、個人的なアドバイスを提供するまでには至っていなかったという。「チャットボットはおそらくユーザーの匿名性を守るために、過度に個人的な質問はしない。しかし、これらのチャットボットは、困っている人、特に医療サービスを受けられない人々にとって有用な代替ツールとなる可能性がある。また、人によっては、人間よりもチャットボットと話す方が容易な場合もある」と、Nanyang Technological Universityの研究員であるLaura Martinengo博士は話す。
世界保健機関(WHO)によると、全世界で2億5,000万人を超えるうつ病患者の約半数は、診断も治療もされていない状態にある。そして、世界中の医療機関は現在でも、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックと、メンタルヘルス問題を訴える人々の増加に圧倒されている。チャットボットなどのデジタルヘルスツールは、医療従事者に相談することを嫌がる、あるいはそれができない人々に対して、タイムリーにケアを提供する手助けになる可能性がある。また、メンタルヘルスの改善を目的としたチャットボットの利用に対する関心も高まっている。Woebot Healthが2021年に発表した研究「Evidence of Human-Level Bonds Established With a Digital Conversational Agent: Cross-sectional, Retrospective Observational Study」によると、同社のAIチャットボットのユーザーの半数以上は、チャットボットとの会話に意欲的である。この研究は、2021年5月11日付でピアレビュー誌のJMIR Formative Researchに掲載された。
Woebot Healthは2017年に設立されたカリフォルニア州サンフランシスコ拠点のスタートアップ企業で、チャットボット基盤のデジタル・セラピューティクス(DTx)を開発している。AIと自然言語処理(NLP)技術に基づく同社のチャットボットは、年間で何百万件にも及ぶユーザーとの「対話」から学び、個々のユーザーの健康や精神状態を把握して、ユーザーのニーズに合致するデジタル・レッスンを提供する。デジタル・レッスンは認知行動療法(CBT)や、マインドフルネス、弁証法的行動療法(DBT)といったエビデンス基盤のアプローチに基づくもので、ストレスを緩和させて、より幸福な人生を送るスキルを体得するのを支援する。ユーザーとの対話を通じてWoebotとユーザーの間に構築される「関係性」は、セラピストと患者との間で構築される絆に劣らず、また、人間同士の関係性構築が2~6週間を要するのに対し、わずか3~5日とより短い期間に形成されるという。
出典:Woebot
Woebot Healthは、無料でダウンロードと利用が可能なウェルネスアプリのほか、医師の処方箋を必要とするDTxとして、産後うつ、および軽度から中等度のうつ症状を持つティーンエイジャー向けのチャットボット製品を開発中だ。うち、産後うつを適応症とした製品候補については、2021年5月にFDAから画期的医療機器指定を獲得している。
(了)
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