2023/06/13
米国eHealthジャーナル第89号
RocheとGenentechがPicnicHealthと提携
Roche, Genentech, PicnicHealth, 研究・調査, 提携, 患者データ・疾病リスク分析, ジャーナル第89号
RWDへの投資を通じて神経疾患研究を加速
ヘルステクノロジー企業のPicnicHealthは4月24日、リアルワールドデータ(RWD)への投資を通じて神経疾患研究を加速させることを目的に、スイスの製薬大手Rocheおよびその米国子会社Genentechとの既存の戦略的提携をグローバルに拡大したことを明らかにした。PicnicHealthは2018年に、RWDに由来する科学的洞察の生成を目的としてRocheおよびGenentechと提携している。
PicnicHealthは、高度なヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL:Human-in-the-Loop)機械学習を用いて、検査結果や臨床診断といった典型的な電子医療記録(EMR)データや、医師のメモやレポートから抽出した疾患固有の要素を含む包括的な医療記録データを構築している。ヒューマン・イン・ザ・ループとは、「人間がループ(システム)の中に組み込まれている」という言葉が示すとおり、人間との相互作用が含まれることを意味するもので、人間参加型のAIとも呼ばれる。収集と前処理―モデル訓練―運用監視―継続的なアップデートというライフサイクルの中に、人間の操作者からのフィードバックが含まれることを指す。
PicnicHealthでは、患者がこれまでに受診した全ての医療従事者の医療記録データを一元管理することで、患者が自身の包括的な「ヘルス・ヒストリー」にオンラインで容易にアクセスするのを可能にするとともに、非識別化された患者データを臨床研究向けに提供している。 同社のシステムは、医療保険の相互運用性と説明責任に関する連邦法のHIPAA(Health Information Portability and Accountability Act)やカリフォルニア州のプライバシー保護法CCPA(California Consumer Privacy Act)に準拠している。Roche/Genentechとの既存提携では、MRI画像、患者報告アウトカム(PRO)、医療記録外のデータへのリンクなど、独自の追加要素で患者データを強化した。
PicnicHealthのチーフ・メディカル・オフィサーであるDan Drozd博士は、「弊社の専門性は、患者との協働によるデータの生成と、それを活用して疾患の進行やステージ分類、また、神経疾患が患者とそのケアチームに与える全体的な影響について研究者がより深い理解を得ることを支援することにある。この専門性を活用する長期的パートナーシップをRocheおよびGenentechと継続できることを嬉しく思う」と述べた。
2018年に多発性硬化症(MS)患者5,000名が参加したカスタムコホート研究「FlyWheelMS」を対象として開始されたこの提携は現在、ハンチントン病、アルツハイマー型認知症(AD)および関連認知症(ADRD)、重症筋無力症(MG)のコホート研究を対象とするものへと拡大した。Rocheは、神経疾患患者が直面する共通の課題や未充足のニーズを明らかにして患者のアウトカムとケアを改善することを目的として、汎神経科学研究である「BrainPower」において今後もPicnicHealthデータセットの活用を継続する。
PicnicHealthが擁する、AD/ADRDおよびMG患者の最新のRWDには、患者および観察者(observer)が報告したアウトカムとEMRデータが追加されている。AD/ADRDおよびMG患者の各コホートから得られるレトロスペクティブなデータとプロスペクティブなデータが統合されることで、これまでにない最も完全な包括的データセットが形成されることになるという。MGコホートの登録は既に終了しているが、AD/ADRDコホートは現在も、米国内の患者を対象に登録を受付中である。
2014年1月に設立されたPicnicHealthは、シリコンバレーを拠点とするシードアクセラレーターのY Combinator から誕生した。Y Combinatorは、Dropbox、Airbnb、redditなどの有望ベンチャー企業を続々輩出し、世界中のベンチャー投資家にその名を知られる。PicnicHealthは、2014年8月と2015年8月に実施されたシード投資ラウンドで200万ドルを調達。シード投資ラウンドには、YCombinatorのほかに、Social+Captial、Great Oaks、Slow Venturesなどのベンチャー・キャピタル(VC)企業や、複数のエンジェル投資家が参加した。また、その後2022年6月のシリーズC資金調達ラウンドでは、6,000万ドルを調達している。
(了)
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