2023/07/25

米国eHealthジャーナル第92号

高齢者向け福利厚生ナビゲーションのDUOS社

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「健康の社会的決定要因 (SDoH)」のアンメットニーズ解消を目指す

ミネアポリスを拠点とする、2020年創業のスタートアップ DUOS Living, Inc. (以下、DUOS社)  が6月22日、1,000万ドルの資金調達を発表した。2022年4月のシリーズAラウンドでの調達金額1,500万ドルと合わせ、総額で3,300万ドルを超えた。 

これまで本誌では、「Companionship for Older Adults」を掲げ、非医療者であるライフサポーター「Papa Pal」と高齢者をマッチングする Papa Inc. (以下、Papa社)  (会社タグ「Papa 」) や、オンデマンド型配車サービスから処方箋医薬品や食料品の配送まで展開する Uber Health社 (会社タグ「Uber Health 」) など、医療産業の周辺で健康を支える各社の取り組みを紹介してきた。


(出典) Papa

本稿で紹介するDUOS社も、一見ニッチのようで高齢者の多くが抱える課題の解決に取り組む、健康産業の一社である。

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高齢社会と化した日本や、高齢化社会の途上にある中国と比して忘れられがちだが、米国も世界有数の高齢者大国(高齢者人口が世界第3位)である。2020年の国勢調査によれば、65歳以上の高齢者人口が総人口の16.8%、凡そ5580万人に到達し、増え続ける高齢者は毎日約10,000人にも上るものと予測されている。

高齢者人口の増加は、とりもなおさず慢性疾患患者や医療費負担の増加を意味し、米国政府では、65歳以上の高齢者をターゲットとした健康保険制度であるメディケア制度の充実などで対抗してきた。

一方、自宅で充実した自由な生活を送りたいと望んでいるものの、健康的な食事や交通機関へのアクセスのような、「健康の社会的決定要因(Social determinants of health:SDoH)」が満たされず、健康を害してしまう高齢者が増える問題が、近年では深刻さを増しつつある。

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この社会的健康決定要因(SDoH)のニーズが満たされていない米国の広範な高齢者人口をターゲットとして、自立を促す手助けに乗り出したのが、DUOS社である。

高齢者を対象とした公的医療保険であるメディケアだが、入院費用のパートA、外来診療費用のパートBなどを組み合わせたプログラム パートC、通称メディケアアドバンテージ(MA)は、民間の医療保険会社が提供している。
メディケア・メディケイド・センター(CMS)が2019年、翌年からMAプランにおける補足給付の対象を、これまでの「主に健康に関係するもの(Primarily Health-Related)」から、「必ずしも健康に関係しないが、健康の増進や維持に寄与することが合理的に予測されるもの(Not Necessarily Health-Related, But are Reasonably Expected to Improve or Maintain Health or Overall Function)」に変更したことを受け、MAプランの開発が促進され、各種の需要に応えた100,000 を超える特典が準備されているが、高齢者当人は元より、介護者や医療提供者などにも解読不能な程に、商品設計が複雑化しすぎてしまった。また、利用可能な公的給付金も予算化されているものの、全体の未請求額は300 億ドルを超えるという。

DUOSが開発したデジタルプラットフォーム「System of Aging」は、会員が利用可能なMAプランの特典、地域のリソース、または政府プログラムを見つけ易くするもの。高齢者が安心して暮らし易くなる一助となり、介護者や医療提供者の負担も軽減し、医療計画における重大なケアギャップにも対処する。

「System of Aging」は、加入する保険の適用範囲に応じて全米50州で利用が可能な、D2C(消費者直販)型のウェブサービスである。利用者は追加費用を負担することなく、事業費用は保険者側で負担している。
30日間のローリングNPSスコア(顧客満足度)は、82と非常に高く評価されている。
MAプランは毎年の一定期間(10月15日から12月7日までのオープンエンロール面と期間)乗り換えやドロップが可能で、MAプランを担う民間医療保険会社の最大の関心事とも言えるが、DUOS会員の88%が、健康保険プランを継続する意向を示しており、各地域で有力な Magellan Health のような医療保険者とも積極的に提携を進めながら、Win-Winの関係で全米展開してゆくものと思われる。


パーソナル・アシスタント「Duos」

探索を効率化するデジタルプラットフォーム「System of Aging」に加え、DUOS社は、高齢者とパーソナル・アシスタント「Duos」をペアにして問題解決を図る、ユニークなアプローチをとっている。

週1回の定期的な電話連絡を担うパーソナル・アシスタントとして割り当てられるのは、毎回同じ人物であり、専属となる。医療機関への往復交通手段や診療の予約、医師の検索などから、買い物や料理など家事全般、行政手続きのような、医療に限定されない御用聞きとして、利用者が希望するタスクや目標を理解し、その需要に対応するための無料ないし低コストのサービスを手配するべく支援する。

長期にわたって信頼関係を1対1で構築し、地域におけるリソースを調整し、家族や保険会社、医療者と協力して、多分野のケアチームのように統率の取れた個別サポートを可能にすることで、会員の自立を最大限に引き出すという算段だ。


出典:DUOS
※ ジャーナル公開と前後して最新の動画が公開されたため、入れ替えいたします。

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健康産業としてのエイジテック領域の盛り上がり

前掲の Papa社 は、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2(SVF2) が主導する2021年11月の資金調達、シリーズDラウンドで評価額が14億ドルとなり、2017年の創業から僅か4年足らずで、いわゆるユニコーン(評価額10億ドル超え、設立10年以内、未上場/非上場のスタートアップ)に成長した。

また、高齢者に対する見守り・生活支援事業を高齢者の孫世代となる大学生が提供する「まごとも」を展開する京都大学発の whicker (ウィッカー)社  のように、Papa社をエイジテック領域の先駆者として模倣するようなサービスが日本でも生まれている。

エイジテック領域への関心が高まる中、効率的な医療介入を実現するデジタルヘルス技術に加え、SDoHのアンメットニーズへの取り組みは、高齢社会の安定的な成長へ向けた課題と挑戦として、大きな期待が集まっている。

(了)


本記事は以下の公式発表を翻訳要約し、適宜解説を加えたものである。


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