2019/11/12

米国eHealthジャーナル 第7号

Sanofi、デジタル・ソリューション開発でAbbottや Happify Healthと提携

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DTx分野に初参入  

フランスの大手製薬企業
Sanofiは9月16日、糖尿病患者のためのデジタル・ソリューションの開発を目的として大手医療機器メーカーのAbbottと提携したことを明らかにした。

Sanofiは翌9月17日には、多発性硬化症(MS)患者に多く見られるうつや不安症といった合併症状に対処するアプリの開発を目的として、
Happify Healthと提携したことを発表、デジタルヘルス分野への進攻に積極的な同社の戦略を浮き彫りにした。

Sanofiは現在、糖尿病を適応症とする新規のインスリンペンとそのタイトレーション(滴定、至適用量設定)を行うコンパニオン・アプリおよびクラウドソフトウェアを開発中だ。一方のAbbottは、持続血糖値モニタリングデバイスの「FreeStyle Libre」を持つ。

FreeStyle Libreは46カ国150万人の糖尿病患者に利用されている実績があり、AbbottによるとFreeStyle Libreは日本、米国、フランスをはじめとする33カ国において保険償還の対象となっている。

本提携の下両社は、Sanofiのインスリン・デリバリー技術とAbbottの持続血糖値センサー技術を組み合わせることで、糖尿病患者の疾病管理をより容易にすることを目指す。

 


Sanofiの主力製品は長期作用型基礎インスリン製剤のLantusとその後継薬Toujeoである。インスリンの適切な投与量は、患者の体質や重症度を見ながら医師が患者ごとに決定し、状態に応じて常時調整するが、このタイトレーションには注意が必要だ。

 

タイトレーションが不適切だと、低血糖に陥る恐れがある。重篤な低血糖症は、振戦、発汗、動悸、視力障害を引き起こし、心臓もしくは脳に障害を与えることもある。

 

近年では、医師に代って患者に適切なインスリン用量を推奨する携帯電話用タイトレーション・アプリの開発が進んでいる。
 

Sanofiは、医薬品や医療機器のコンパニオン・ソフトウェアを開発するVoluntisと2011年から提携関係にあり、両社は基礎・追加インスリン療法(Basal-Bolus療法) 向けのタイトレーション・ソフトウェア、「Diabeo」の開発で協力している。
Voluntisは2016年12月、 2型糖尿病患者向けアプリの「Insulia」について米国および欧州で承認を獲得した。

Sanofiは独自のアプリ開発も進めており2017年1月には、1日1回・長期作用型基礎インスリンのタイトレーションを行なうアプリ、「My Dose Coach」について510(k)申請経路でFDA承認を獲得している。
同様の機能を有する「MyStar DoseCoach」は2016 年に欧州で承認を受けた。さらにSanofiは、糖尿病患者の間で人気の高い食物カロリー計算アプリ「GoMeals」も持つ。 
             

(出典)Happify Health

Happify Healthは、ニューヨーク州ニューヨーク拠点の消費者向け(DTC)ウェルネスアプリ企業で、同社アプリはこれまでに400万人近くのユーザーに提供されている。

Happify Healthは2017年には、慢性心疾患患者の精神面の健康をサポートするデジタルプラットフォームの提供で大手民間保険会社のHumanaと提携。また、2018年11月には大手民間保険会社のCignaが、Happify Healthのデジタルソリューションを2019年以降に職場ウェルネス・プログラムの一環として提供すると発表している。

Happify Healthによると、DTCアプリではなく、医師による処方箋が必要なデジタル治療分野への参入に向けて、同社は過去数年間準備を進めてきた。
Sanofiとの提携により、MS患者に特化したデジタル治療アプリを共同開発する。臨床研究でその安全性と有効性を実証したのち、FDAへ承認申請を行う計画だ。Happify Healthとの提携によりSanofiは、デジタル・セラピューティクス(DTx)分野に参入することとなる。

Happify Healthは2018年、一般人口を対象に、不安とうつ症状を軽減する同社アプリの無作為化対照試験を実施し、結果をInternational Journal of Wellbeing誌に発表した。それによると、アプリを8週間使用し最低16種類のアクティビティを完了するという、同社アプリの推奨に従った被験者において、不安症状がほぼ25%、うつ症状が25%以上減少した。

 

米国ではMS患者約100万人のうち、最大半数にうつ病の兆候が見られるという。MS患者では一般人口と比較して、大うつ病罹患率が約3倍、不安障害罹患率は20%高いと推定されている。SanofiとHappify Healthは両社の提携を、費用対効果の高い患者参加型アウトカム改善技術の利用を目指す長期的努力の第一歩と位置付けている。

近年のSanofiは、ヘルスケアIT戦略をますます積極的に展開している。Sanofiは、臨床研究の変革を目的として2019年5月にVerily Life Sciences(以下、Verily)と戦略的提携契約を締結した製薬大手4社のうちの1社である。

同契約の下、Sanofiと大塚製薬、Novartis、Pfizerの4社は、Verilyの「Project Baseline」 に参画し、患者や医師の研究への参加、および臨床研究の迅速化と実施にともなう困難の解消を促し、医療施設の枠を超えたデジタル基盤の臨床研究プログラムの開発でVerilyと協力する。

Project Baselineは、健康に関する明確な「ベースライン」の確立と質の高いデータ・プラットフォームの構築により、疾患の発症やそのリスク因子についての理解を深めることを目指し、Verilyが2017年に開始した取り組み。

デジタル技術を活用し、より多くの患者や臨床医に研究に参加してもらうことで、包括的で質の高いデータ収集を目指している。製薬大手4社は、患者のEHRやデジタル機器から得られる健康データの収集と管理を通じてRWEを生成する新たなアプローチを模索するほか、VerilyのProject Baselineプラットフォームを採用し、心血管疾患、癌、精神疾患、皮膚科疾患、糖尿病といった分野での臨床研究を実施する計画だ。

Sanofiはまた、糖尿病患者のための疾病管理および、糖尿病性足部潰瘍および壊疽の予防を目的としたデジタル・ソリューションに注力するOnduoと呼ばれるジョイント・ベンチャーをVerilyと立ち上げている 。


ヘルスケアIT戦略にフォーカスする製薬企業はSanofiに限られない。PricewaterhouseCoopers(PwC)の2019年3月発表の報告書によると、2018年の調査で製薬企業の42%がデジタル治療やコネクテッド・デバイスを現在開発中と回答し、開発していないと回答した企業の42%も今後1~2年以内の開発を検討していると答えた(図)。

また2018年の医師への調査では、過去12ヶ月間に診断や治療に関するデジタルアプリもしくはプログラムについて患者と話をしたかという質問に対し、56%が医師から話題を振った、26%が患者から質問を受けたと回答している。

 

(了)


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