2019/07/09
米国eHealthジャーナル試読版
DTC診断テスト企業のLetsGetChecked、3,000万ドルを調達
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保険を利用しない新しい健康管理手法
2014年に設立されたニューヨーク拠点のスタートアップ企業LetsGetCheckedは5月8日、シリーズB投資ラウンドで3,000万ドルを調達した。
同投資ラウンドは、ヘルスケアIT投資に特化するOptum VenturesとQiming Venture Partners USAが主導した。LetsGetCheckedは、性的健康、女性の健康、男性の健康、ウェルネスの4カテゴリーにおいて、消費者直販(Direct to Consumer, DTC)診断テストを手掛けている。
性的健康のテストは、主に性感染症(STD)を検査するもので、10種類の感染症を対象とした最も包括的な「Complete 10」の価格は299ドル。女性の健康テストは、女性ホルモンやヒトパピローマウイルス(HPV)感染、卵巣予備能など、また男性の健康テストは、男性ホルモンや前立腺特異抗原(PSA)などを検査する。ウェルネステストは、直腸癌、コレステロール値、甲状腺ホルモン、ビタミンD不足、ビタミンB12不足、腎機能、肝機能などを検査する。
各テストは、薬局チェーンのCVSや量販店のWalmartの店舗で購入できるほか、LetsGetCheckedのウェブサイトからオンラインで注文することが可能だ。オンライン注文の場合、当日もしくは翌日配送でテストキットが自宅に届く。ユーザーは、まずテストキットを「アクティベート」し、説明書に従って採血などを行って「サンプル」を自身で収集し、キットに含まれている返信用封筒にサンプルを入れて郵送する。
ユーザーのIDは匿名化され、後述する「CLIA認可ラボ」で解析される。
テスト結果は2~5日後に明らかになり、結果とその後の対応についてLetsGetCheckedの医療チームから電話がかかってくる仕組みだ。ユーザーは、ウェブサイト上のアカウントにログインし、テストの結果を確認したり、健康状態を追跡することが出来る。
LDTに関する規制は「未定」
LetsGetCheckedが販売する診断テストは、医師のオフィスや病院外来で患者に実施される診断テストと基本的には同一のものである。
LetsGetCheckedによると、これらのテストはISO 13485準拠の臨床検査ラボで製造され、患者のサンプルの解析もラボ内で行われている。ISO 13485は日本を含む世界各国の医療機器に関する規制において品質管理手法のベースとして採用されている。キットに含まれる血液採取用ランセット(皮膚穿刺器具)は医療機器に該当する。そして、診断テストそのものは、ラボが自ら開発し所有するLDT(Laboratory Developed Test)と呼ばれるテストに分類される。
LDTは体外診断テスト(in vitro diagnostics、IVD)の1つで、テストが「単一」のラボ内で開発・使用されているものをいう。同一のテストであっても、それが複数のラボで製造・利用されている場合にはLDTとは見なされず、IVD、すなわち医療機器の1つとしてFDAの規制対象となる。
LDTは、1988年に成立した臨床検査改善修正法(Clinical Laboratory Improvement Amendments、以下CLIA)を根拠として商業化されているテストサービスであり、LDT提供ラボは、メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)が管轄するCLIA認可ラボに登録される必要がある。
MSはCLIA認可ラボの検査を定期的に実施しているが、ラボが商業化するLDT自体の審査は行わない。そしてFDAは、LDTへの審査権限を有するものの、あえて行使しないというスタンスを長年取り続けていた。しかし、LDTが利用される環境は近年大きく変化している。大量製造され、より多くの患者層を対象に、様々な疾病のスクリーニングを目的として利用されており、治療選択肢決定の重要な判断材料となっている。また、分析にあたって複雑なソフトウェアを利用するなど、LDTそのものも高度になっている。
FDAは、LDTに対する適切な規制がないために、患者のリスクが大きくなることを懸念し、2014年10月には、患者リスクの大きさによってLDTを3クラスに分類し、クラス別に承認審査基準を設定することを提案するガイダンス草案を発表した。
結局このガイダンスの最終化は遅れに遅れ、最終的にFDAは2017年1月、同ガイダンスの最終化は行わないと発表した*1 。FDAは声明において、適切な規制枠組みの制定に向けてより多くの議論を行う必要があり、また連邦議会による法整備の機会を与えるためだと説明している。
拡大するDTC診断テスト市場
DTC診断テスト市場は拡大しており、同分野へのベンチャー・キャピタル(VC)投資も活発だ。LetsGetChecked と同様のサービスを展開するEverlyWellは4月16日、Goodwater Capital が率いる投資ラウンドで5,000万ドルを調達したことを明らかにした。EverlyWellの診断テストもLDTであり、FDA規制対象外の製品として商業化されている。
腎疾患や尿路感染症などを早期発見できる尿検査ホームキット「Dip.io」を販売するイスラエル拠点の Healthy.ioは2月5日、Alephが率いたシリーズB投資ラウンドで1,800万ドルを調達したことを明らかにした。
同投資ラウンドにはSamsung Nextも参加した。尿サンプルに浸した後、様々に「変色」した検査試験紙をサンプルトレイに設置して、スマートフォンで写真を撮影して送信する仕組みだ。「Dip.io」は、510(k)申請経路でFDA承認を獲得している。これらの診断テストは、医師のオフィスや病院外来で実施されているサービスに置き換わるものだ。皆保険制度を欠く米国では、無保険者が2,850万人存在するが(2018年9月のHealth Insurance Coverage in the United States: 2017より)、彼らが外来診療でこういった検査を受けた場合、100%自己負担で費用を支払うことになる。そして、その額は往々にして非常に高額だ。保険に加入している場合でも、ほとんどのプランはディダクタブルと呼ばれる保険免責額を設定しており、医療費が免責額を上回らない限り、全額自己負担で医療サービスを利用することになる。保健福祉省(HHS)によると、米国民の47%は、高ディダクタブルの保険プランに加入している。
LetsGetCheckedらが販売する診断テストは、こういった人々にとって恩恵となる。定期的に試験を受けることで自分自身で疾病のモニタリングを行うことも可能だ。また疾病の種類によっては、顔見知りのプライマリーケア医*2 ではなく、誰にも知られずに診断テストを行いたいケースも考えられるだろう。
(了)
*1)https://www.fda.gov/media/102367/download
*2) 米国の一般的な保険プランでは、患者は自身が指定したプライマリーケア医を通じてのみ専門医へのアクセスを得る。つまり、最初の診断は必ず指定のプライマリーケア医となる。
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