2022/07/07
デジタルテクノロジーによって進化する歯科治療(第7回)
テレデンティストリー(遠隔歯科治療)をどう見るべきか 【前編】
AI技術, 臨床医, テレヘルス, 歯科・口腔外科, 診断・検査・予測
コロナ禍で進む新しい選択肢を読み解く
コロナ禍のこの数年、時代が大きく変わったと実感を持たれた方がいらっしゃると思います。この数ある変化の一つとして、医療分野のオンライン治療が話題になり、デジタル化の加速を体感された方も少なくないのではないでしょうか。
歯科での遠隔医療を「テレデンティストリー」と言います。すでに10年以上前からデジタル化に伴うこの領域は話題になっていました。2013年の論文で、テレデンティストリーとは、「患者さんと直接、触れるのではない歯科治療やアドバイスを情報技術として離れたところから提供すること」と定義されています。予防や診断を含む歯科治療全般、初期虫歯の発見、患者教育などに対して、デジタルの医療記録、電子紹介システム、画像の電子化から遠隔相談など、多岐に渡り活用が始まっていました。効率化によって、特に医療が受けにくい地域でのケアのクオリティを上げることが目的とされていたのです¹⁾。
たとえば、高齢者向けケアホームでの活用例報告があります²⁾。病気や障害を持つ患者さんの治療は、みなさんが想像する一般の歯科医院で行うのとは違う難しさがあります。私も大学院時代の外勤などで数年間、介護施設での治療を行っていた経験があり、垣間見ることがありました。歯磨きをすることや、処置を受ける際の姿勢をとることにも困難がある場合など、それぞれの患者さんの状況でプラスアルファの配慮が必要になります。また、自由に歯科医院にいくことが難しく、歯科がない病院や施設などにいる患者さんは、往診の歯科医師や歯科衛生士さんを決められた日まで待つこともしばしばです。このようなアクセスが難しい環境の際、患者さんのお口の中の写真をデジタル画像で送ることで、治療が必要かどうかのアドバイスや仮の診断をするのにテレデンティストリーが役立つという世界中のレポートがあります²⁾。
コロナ禍で、歯科治療を受けることがこれまでと同じようにいかないという問題が多くの国でありました。また、先進国でもイギリスなど、歯科治療に関する医療システムの問題がもともと指摘されている状況が見受けられます。英国歯科医師会(ADG)によると長年の資金不足と政策が原因で、日本の保険医療機関にあたるNHSの歯科を受診できるのは、成人の3分の1、子供の半数です。イギリスでは抜歯が子供の入院する最大の理由になっています³⁾⁴⁾。
これまでも、テレデンティストリーは歯科医療従事者が不足している地域や、十分な医療を受けられない人のために成長してきました。すでに、ある程度の信頼性や妥当性があり、治療費のコストを抑えることができる場合がある、という研究報告があります⁵⁾⁶⁾⁷⁾。
さらに、COVID-19のパンデミックによる、歯科医療機関の閉鎖などで、治療を受けるのが難しい状況がさまざまな国で問題になりました。たとえば、アメリカの歯科医師23%が、テレデンティストリーやバーチャルプラットフォームを利用していた、という報告があります⁸⁾。歯科医療における治療のアクセスを拡大するということに対して、おおむね前向きな見解が見られました。面白いことに、あるいは必然かもしれませんが、早期に導入した歯科医師は欠点より利点が大きいと認識する傾向があり、後から取り組んだ歯科医師は初期費用のデメリットに注目し、テレデンティストリーで提供されるケアのレベルを懸念していたようです ⁵⁾⁸⁾。 早期に導入した歯科医師が認識する利点は、具体的には、治療計画の相談の際の有効性が指摘されています⁵⁾。皆さんも歯科医院でどういった治療をするか、話し合ったことがあるかもしれません。歯の状態(歯式)が個人の鑑定に使われるほど、歯の治療の選択肢はパズルのように複雑になることがあります。確かに、レントゲンや模型、治療内容や治療費など、資料を基に説明する上でオンラインの面談は便利に見えます。ただし、アメリカの医療費は高額なのでそういった時間を割くことが可能かもしれませんが、日本では保険上の制約があるので難しい部分もあるでしょう。その他利点の例として、iPhoneでとったお口の写真を見てざっくりどんな治療が必要かを相談したり、応急的な薬の処方、口腔衛生に関する教育やプロモーションが挙げられています⁵⁾。
一方で、慎重派の意見として、倫理的な問題と治療の質がありました⁵⁾。レントゲンや検査ができない内容のアドバイスに、歯科医師としての治療責任を十分に果たしているか疑問があり、治療費を受け取ることに気が進まないという考え方には共感ができます。実際に、レントゲンや各種の検査、経験などによる診断や治療法の決定の上で、歯科医師同士でも白熱した議論が起きるほどの、各種専門性に基づく見解があります。写真を撮るのにも歯科では専用のカメラを使うことがあり、レントゲンを使わずに普通の写真で表面を見るだけでは、見落とす可能性が高くなることは想像できます。
次回の後編では、慎重派の意見からテレデンティストリーの懸念点と、コロナ禍での導入で明らかになった利点について、考察します。
(次回に続く)
【出典】
https://www.wfpha.org/provision-of-oral-health-care-for-the-institutionalized-elderly/ (accessed 05 July 2022)
https://dentistry.co.uk/wp-content/uploads/2022/05/ADG-Report_The-urgent-need-to-level-up-access_April-2022_V3.pdf (accessed 05 July 2022)
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