2022/07/28

デジタルテクノロジーによって進化する歯科治療(第8回)

テレデンティストリー(遠隔歯科治療)をどう見るべきか 【後編】

歯科・口腔外科, 臨床医, 診断・検査・予測, AI技術, テレヘルス

コロナ禍で進む新しい選択肢を読み解く

テレデンティストリー(歯科遠隔治療)について、前編では医療のアクセスが難しい患者さんや病院のシステムのために発展し、特に近年の注目事項を紹介しました。後編では、コロナ禍で検証されたテレデンティストリーについての考察を続けます。

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(出所:Shutterstock)

歯科医師として人の体に手を加える治療は、長い年月の蓄積である多くの論文の解析など、学術的な裏付けのある「ガイドライン」や学会・病院の治療指針をもとに決めていきます。このような方針を参考に、実際の個別状況を踏まえた治療の際には、歯をわずかミクロンの単位で削るのにも真剣に悩みます。同じように見えるお口の中もその方によってそれぞれ異なります。目で外から見るだけではなく、レントゲンや各種検査のほかにも、噛む力の強さ、唾液の量や舌の動きなど、お口の中から、また、触診で顎の下のリンパ節が腫れていないかなど、体の情報をさまざまな方法で知る必要があります。その時は症状がとれても長くいい状態が保てるか(予後)など、患者さんのお口の中全体や体に対する影響について、歯科医師は深く考えて治療をしているのです。

積極的でない歯科医師の中には、「テレデンティストリーは医科からのトリクルダウン技術であり、外科的な要素の強い歯科ではあまり根本的な解決につながらないのではないか?」という声もあるようです¹⁾。さらに個人情報に関するHIPAA規制のことを心配している慎重派もいます¹⁾

HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability)とは、1996年に米議会で制定された個人情報取り扱いについての手続きであり、デジタル化に不可欠です。研究者が、匿名化された誰のデータか知らない情報を用いる原則で、現在でも広く参照されています。しかし翌年、公的にアクセス可能な情報により、マサチューセッツ州知事の病名を推定することに成功し、その原理を発表する論文報告で匿名情報のリスクが知られました²⁾。その後、さまざまな試行があり、2010年には匿名化されたデータをビジネス利用する際のルールと罰則のための法律HITEC(Health Information Technology for Economic and Clinical Health)が作られました。データを匿名化しても特定されるリスクは必ず残るので、契約と罰則、セキュリティ対策が必要とされるようになったのです³⁾⁴⁾。このように、慎重派の意見は確かにもっともで、簡単にiPhoneの写真で医療の相談をすることが便利だとも言い切れない、という考え方にはそれなりの背景があるのです。

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