2022/09/15
臨床医が紹介する日本のスタートアップ技術 (第24回)
情報技術でゲノム医療への社会実装を推進する、テンクー 【前編】
臨床医, 日本, 診断・検査・予測, 患者データ・疾病リスク分析
ゲノム解析・バイオインフォマティクスを医療に活かす
近年、がんゲノム医療の発展は凄まじいものがあります。
がんゲノム医療とは、がん細胞のゲノムを調べて、どの遺伝子に変化が起こっているのかを知り、それぞれの患者さんのがんがどのような性質のがんなのか、どのような治療法が適しているのかを選択していくことです[1]。私は、肺がん診療を行っているため、常時ゲノム医療情報をアップデートするのに苦労しています。
がんの薬物療法は、化学療法剤(抗がん剤)を用いた治療が中心でしたが、2000年代に入ると特定の遺伝子の異常を標的とした薬剤(分子標的薬)も使われるようになりました。2010年代に入ると特定の分子標的薬の効果を事前に調べる検査(コンパニオン診断)が導入され、より効果的に分子標的薬が使えるようになります。さらに検査技術の進歩により、がん遺伝子パネル検査が開発され、日本では2019年6月から、保険で利用できるようになり、がんゲノム医療の本格的な実用段階に入っています[1]。
全国に広まりつつある、がん遺伝子パネル検査は、がん細胞に起きている遺伝子の変化を調べ、がんの特徴を知るための検査です。がんの特徴が分かれば、一人ひとりに適した治療法(分子標的薬など)を見つけられる可能性があります[2]。患者さんのがん組織や血液を使って、がん細胞の数十から数百の遺伝子を一度に調べ、その中で起きている遺伝子の変化を確認します。遺伝子の変化によっては、効きやすい薬が分かる場合があります。検査結果は「エキスパートパネル」と呼ばれる専門家の集まりで検討し、担当医はエキスパートパネルで話し合われた結果を参考にして、治療法を患者さんに提案します。
このような保険診療によるがん遺伝子パネル検査は、どの医療施設でも行えるわけではなく、厚生労働省が指定した医療機関でのみ受けることができます。現在、全国に233カ所の病院*1が指定されています[3]。
ゲノム医療を主な事業領域とし、一人一人の患者に適切な治療が提供される社会を目指し、情報技術を用いてゲノム医療の社会実装に貢献している、株式会社テンクー(以下、テンクー)というスタートアップがあります。テンクーは、自社が開発したゲノム及び生体情報解析のトータルソリューションソフトChrovisを用いて、がんの診断・治療・予防や最先端の研究開発等のためのゲノム情報解析を行なっています。
また、テンクーは解析結果に対して臨床現場での判断に役立つ情報を付加する「アノテーション」に力を入れています。がん遺伝子パネル検査は画期的な検査手法ですが、解析結果の解釈とレポート作成に多大な手間がかかることが大きな課題となっています。情報技術を活用して複数のデータベースにまたがる膨大なデータを自動処理し、検査結果を判断する医師の業務のサポートや、患者への情報提供を行なっています。
臨床医としては、上記のような解析結果の解釈という点で日々進歩するがん医療において、正しい情報を効率的に提供してくれるというのはとても安心でき、また忙殺される日々においては業務負担軽減につながりますので非常に有用なサービスと考えられます。
(次回に続く)
本記事に掲載されている情報は、一般に公開されている情報をもとに各執筆者が作成したものです。これらの情報に基づいてなされた判断により生じたいかなる損害・不利益についても、当社は一切の責任を負いません。記事、写真、図表などの無断転載を禁じます。
Copyright © 2022 LSMIP事務局 / CM Plus Corporation
連載記事