2022/09/22
デジタルテクノロジーによって進化する歯科治療(第9回)
デジタル歯科医療を支えるCAD / CAMの周辺の光景
テクノロジーは1日してならず、製品開発の歴史に繋がる新技術
皆さんが歯科医院で治療を受けるとき、見慣れない道具や材料を目にすることがあることでしょう。歯科治療では、内科の病院のように飲む薬の種類はそれほど多くはありませんが、特殊な器具や、詰め物・かぶせ物をつけるのに使うセメントの材料など、様々なものがあります。こういった器具や材料は、歯科材料専門のメーカーをはじめ、町工場のような小さな会社のほか、海外からの輸入や、意外に思われるかもしれない企業が提供し、歯科治療を支えています。
人工の絹ともいわれる、レーヨンの工業化の成功で創業した株式会社クラレもその企業の一つです。同社は、1973年に始まった無痛治療の研究過程で見つかった接着システム(接着性モノマー)を使用し、歯科用の接着剤やレジンなどの充填剤の発売を始めました。
クラレ社が繊維の開発で得た高分子の知識が、コンポジットレジン(プラスチック素材の詰め物)に応用され、フィラーと呼ばれる微細なガラスの成分が練り込まれています。奥歯の溝や前歯の小さな虫歯の治療で使ったことがある方も多いでしょう。
日本の歯科治療費はアメリカなどの海外に比べて、格段に安いと言われていますが、長年、日本の保険制度を支えてきたのは歯科医療者の献身の他に、こうした企業の努力もあります。費用に換算される保険点数は最終的に国が決めているため、材料費も一定の金額の幅に入っている必要があるのです。
歯科材料に求められる条件は、さまざまな性質があります。保険治療で使われるパラジウム合金や保険外で用いられる貴金属の合金は、強度や精密に加工できる長所などがあるため、長く使われてきました。しかし、歯の色と異なる見た目や、それほど多くはないとしてもアレルギー反応がおきることなどの懸念も指摘されています。また、近年では医療経済的に金属を使う歯科材料の費用高騰が問題になっています。
金属にかわって近年、CAD/CAM(Computer Aided Design / Computer Aided Manufacturing)コンポジットレジンによる補綴物(歯のつめ物やかぶせもの)が歯科治療で使われています。金属の高騰や保険治療の適応の幅の広がりで、使用量が増えています。
CAD/CAMコンポジットレジンはセラミックほどの透明感やリアリティの追求には及ばずとも、歯の色に近い審美性があります。また、これまでのレジンに比べて丈夫(高い曲げ・圧縮抵抗性)で耐久性があり、体になじみやすく、金属ほどの価格変動がないことが評価されています 1)。
また、CAD/CAMの補綴物には、歯科でよく行われてきた印象材という口の中で固まる粘土のような型取りだけでなく、口腔内スキャナーによるデジタル光学印象が使われます。データをCAD/CAMの技術がある歯科技工所に送信して、模型を直接やりとりすることなく制作する方法です。この一連のシステムは少子高齢化の時代に、これまでマンパワーに依存するところが大きかった歯科技工の工程を変える可能性があると考えられています。
CAD/CAMのレジンブロックの補綴物は、金属より割れる可能性がありますが、もっとも多いトラブルは、適合性(歯とぴったり合うような精密さ)が金属より得られにくく、とりつけた後で外れてしまう脱離であるといわれています 2)3)。治療に必要な要素にはレジンブロックの性質に加えて、加工するミリングマシンの性能や、歯につけるセメントや接着方法といった周辺の技術進歩もあります。
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