2022/10/25

米国eHealthジャーナル第75号

炎症性腸疾患のRWDデータセット「PremiOM」、OM1社が公開

創薬, VC投資・M&A・決算, OM1, 臨床試験, AI技術, 消化器系疾患, ジャーナル第75号, 患者データ・疾病リスク分析

潰瘍性大腸炎・クローン病の臨床研究、個別化医療に貢献

慢性疾患に焦点を当てたリアルワールド・データ(RWD)関連技術を開発する、マサチューセッツ州ボストン拠点のスタートアップ OM1社 (OM1, Inc.) は9月14日、潰瘍性大腸炎、クローン病を適応としたRWDデータセット「PremiOM」をリリースし、長期に渡る包括的な研究グレードの炎症性腸疾患患者データへ迅速なアクセスが可能になったことを発表した。

本記事は、デジタルヘルス各社の公式発表や、疾病や技術の市場調査/レポートを、ヘッドライン形式で紹介する新企画「プレスルーム」の9月14日版ニュースから、解説してお届けしております。
https://www.lsmip.com/article.html?id=6413

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OM1社は、リウマチ学、皮膚科学、消化器病学、心臓代謝、呼吸器、メンタルヘルス、中枢神経系など、各専門分野における臨床医と健康データの大規模なネットワーク、AIプラットフォームを通じて、ヘルスケア分野におけるRWD・RWEを再構築している。各臨床研究の加速、治療効果の実証、規制当局への薬事申請、安全性の監視など、ヘルスケア領域全般での活用が期待されるRWDテクノロジーベンダーの一社である。

一方、炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease、IBD)の主要なタイプである潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis)、クローン病(Crohn Disease)は、米国だけで最大 300 万人が罹患しており、日本でも近年では増加傾向にある。潰瘍性大腸炎には、米国に次いで世界で2番目に多い約20万人が罹患しており、故・安倍元首相が罹患していたことでも知られている。
免疫の過剰反応から腸管粘膜に炎症や潰瘍が生じ、腹痛や下痢・血便、発熱などの症状が寛解と再燃を繰り返す慢性の腸疾患であり、患者の身体的・精神的な負担から生活の質(QOL)が著しく低下させてしまう。
病因の全容が解明されておらず、診断、最善の治療プロトコルに関する研究が続けられている、日本でも難病指定されている疾患である。 

(出典) Shutterstock

今回OM1社がリリースした炎症性腸疾患の「PremiOM™」データセットは、2022年9月時点で、潰瘍性大腸炎患者12,800 人以上のデータセットから成る「PremiOM™ UC (Ulcerative Colitis)」とクローン病患者13,000 人以上(2022年9月時点)のデータセットから成る「PremiOM™ CD (Crohn's Disease)」で構成される。重症度分類として「PremiOM UC」にはMayoスコア、 「PremiOM CD」には、クローン病活動度指数(Crohn's Disease Activity Index、CDAI)が含まれる他、長期間に渡る治療反応などの詳細な臨床データが網羅されている。 

IBD Research-Grade Real-World Data
(出典) OM1

いずれもIBD特有の、症状の再燃と寛解を長期間に繰り返すペイシェントジャーニーに寄り添い、2015年以降の7年間に加え、今後も継続的に更新されてゆく、縦断研究を前提としたデータセットである。
更には26の統合医療ネットワーク(Integrated Delivery Networks、IDNs)、2,000名超の消化器科医のデータネットワークを介して、138 万名超の患者データへのアクセスも提供されている。この中には、健康の社会的決定要因(SDoH)データや併存疾患、治療に副作用/有害事象、患者報告アウトカム(PRO)データまで含まれている。

潰瘍性大腸炎、クローン病の患者には、複数の治療薬が選択可能であるが、個々の患者に最適な治療法は異なり、明確にはなっていない。前述の通り、病因や病態に未解明な部分も残っている。「PremiOM」データセットの登場は、患者毎に個別化されたオーダーメイドのケアを高度に前進させる可能性を秘めており、より良いアウトカムを導く研究活動をサポートしてゆくことを期待したい。

Longitudinal patient journeys in GI
(出典) OM1

なお、OM1社はこれまで、うつ病、多発性硬化症、心不全、アトピー性皮膚炎、乾癬、乾癬性関節炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)など、各種慢性疾患を適応とした「PremiOM」データセットを開発しており、IBD向け「PremiOM」データセットが加わることとなる。

(了)


本記事は以下の公式発表を翻訳要約し、適宜解説を加えたものである。


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