2022/11/22

「知的財産」解説シリーズ 連載第2回

「DTx」と「オンライン診療」の連携が目指すヘルスジャーニーの最適化

デジタルセラピューティクス, 知的財産権

《編集部から》❝デジタルヘルス❞において、最も大きな期待を集めている領域が、デジタルセラピューティクス(Digital Therapeutics、DTx)である。 国内でも薬事承認を得て上市される製品が生まれるなど、社会実装が一段と進みつつあるが、臨床的エビデンスが証明されていることは勿論、 どのように知財戦略を描くかが、資金調達や戦略提携など社外パートナーと協同することが多いスタートアップでは後々に重要性を増してくる。
計4回となる本連載では、国内外で名を馳せるスタートアップの事例を引用しながら、その勘所を探ることとする。
(第1・2回は無料記事として一般公開、 第3・4回は「米国eHealthジャーナル」購読者向けの限定公開とさせていただきます)

- Teladoc Health社の特許を事例に -

 本連載では、デジタルセラピューティクス(以下、DTx)の技術動向について、各国の特許庁が公開している知財情報に基づいて紹介する。第1回は、DTxの各ステークホルダーに関する技術を通じて「DTxに関する技術の全体像」について概観した。

 連載第2回となる今回は、全米No.1のシェアを誇るオンライン診療サービスを提供するTeladoc Health社(以下、Teladoc社)の特許を通じて、「患者が疾患と向き合い、治療を行っていく体験の過程(以下、ヘルスジャーニー)」に「DTx」と「オンライン診療」がどう関わっていくかを考えていきたい。

1. 画面UIを通じたヘルスジャーニーの最適化

 DTxは、それ単体で患者の治療を完璧に行えるものではなく、時に家族や医師の介入が必要となる。Teladoc社のHPには下記の図が示されており、家族や医師とどのように接点を持つかは、患者のヘルスジャーニーにとって重要な要素となる。

Teladoc Health + Livongo より引用

 医師から医療的なフィードバックを受けたり、家族から精神的な励ましを受けたりする上では、自身の健康に関する情報(血糖値などの健康指標・食事の内容・運動の内容、今の気持ちなど)を医師や家族に適切に行えるUIが重要である。

 下記は DTxのユーザーインターフェース(以下、UI)に関するデザイン特許(日本における意匠に相当)から引用した図である。内容としては、DTxを通じて取得した情報をヘルスコーチや医師、家族に共有する画面となっている。ちなみに、同デザイン特許はTeladoc社が買収したLivongo社が出願していた特許である。

 上記機能に限らず、UIに関する技術はDTxにとって重要な技術であり、第1回の記事でもその旨を示したように知財の重要な保護対象となる。ちなみに、Livongo社は2013〜2014年の間に画面のUIに関して18件のデザイン特許を出願している。

2. 医師の適切な介入によるヘルスジャーニーの最適化

 前述のように、DTxを通じて適切な治療効果を得るためには、時に医師による介入が必要となることもある。DTxによる介入と医師による介入とのスムーズな切り替えや、医師が介入する条件の最適化などは、患者のヘルスジャーニーの最適化に向けて今後さらなる改善が必要となる技術である。

 下記は、DTxが患者から取得した健康指標(血糖値等)に応じて、患者に対してシステムあるいは医療従事者から適切な介入を行う機能に関する特許から引用した図である。

 DTxは患者に対して、動画・画像・音声・テキスト等を組み合わせて介入を行うが、本特許では、状況に応じて医師とオンラインで接続して介入を行う(=オンライン診療)ことを可能とする。あるいは、医師からの音声メッセージを録音して患者に届けることも可能である。

 本機能は、DTxとオンライン診療の連携によって、ヘルスジャーニーを最適化する1つの事例といえる。

3. DTxを通じて、患者のヘルスジャーニーにどこまで入り込めるか

 Teladoc社のHPにはLivongo社との合併に対して、下記のメッセージが掲げられている。

 ”the combined company becomes the only consumer and healthcare provider partner to span a person’s entire health journey.”
Teladoc Health + Livongo より引用

 上記のメッセージには“entire” health journeyという言葉がある。entireは”全体の”といった意味であるが、ここではDTxによる介入ではヘルスジャーニーが完結せず、医師や家族による介入の入り口まで含めて、DTXがヘルスジャーニーを幅広くサポートすることを指していると筆者は考える。

 患者のヘルスジャーニーにおいて、より多くの過程にDTxが関わることで、DTxは患者の状態をより詳しく把握し、より適切な治療、より適切なヘルスジャーニーの構築に役立つことができる。この状態が、Teladoc社が目指す“partner to span a person’s entire health journey.”なのではないだろうか。

4. まとめ

 前回の記事では、患者や医師などDTxに関わるステークホルダーに着目することで「DTxに必要な技術のうち、誰のどの課題にフォーカスするか」という議論を行った。

 今回の記事では、DTxとオンライン診療の連携を通じて、「DTxを通じて、ヘルスジャーニーをいかに最適化するか」という視点を提供することを試みた。

 次回の記事では、習慣化アプリ「みんチャレ」(エーテンラボ株式会社)に関する特許情報を通じて、DTxに関わるステークホルダーやヘルスジャーニーについて視野を広げていきたいと考えている。

注:本連載では、記事中で紹介する特許について、権利登録の有無・出願時点からの権利範囲の修正など法的な要素には言及せず、あくまで技術情報として特許の内容を紹介している。

(了)


次回 連載第3回は、12月13日(火) 発行の「米国eHealthジャーナル」記事として掲載いたします。ご購読に際しましては、年間法人購読契約が必要となります。

 

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