2023/01/24

米国eHealthジャーナル第81号

Amazon、Alexaのサードパーティー開発HIPAA準拠医療サービスを終了

ジャーナル第81号, Amazon, AI技術, 医療コミュニケーション支援, 音声技術

特定のヘルスケア体験をターゲットとするスキル開発に注力

Amazonは12月5日、同社の人工知能(AI)搭載デジタルアシスタント「Alexa」のスキルのユーザーに宛てたEメールにおいて、医療情報のプライバシーを保護する包括的な連邦法、HIPAA(Health Information Portability and Accountability Act)に準拠したサードパーティー開発の医療サービススキルを12月9日に終了すると伝えた。 Alexaのスキルとはスマホでいうアプリのようなもので、第三者によって開発されたスキルを導入することによってAlexaの機能が拡張される。Amazonは今後、Alexaの情報削除ポリシーに従って、サードパーティ開発のHIPAA準拠医療サービススキルに関連したユーザーのヘルスケア情報を全て削除するという。

Amazonのスポークスパーソンは、「Amazonでは定期的にサービスの見直しを行って、顧客に喜ばれるものへの投資を実施している。今後は、Alexa Smart Properties for Healthcareを含むヘルスケア体験の開発に向けて、多額の投資を行っていく」と話した。  

今回終了が明らかされたHIPAA準拠の医療サービススキルは、Amazonが2019年4月に開始したもので、Amazonから招待を受けた6組織がそれぞれ作成した。6つのスキルは、薬剤給付管理会社(PBM)のExpress Scriptsによる処方箋医薬品メールオーダー管理スキルの「Express Scripts」、民間医療保険大手のCignaによるメンバーのための健康増進スキルの「Cigna Health Today」、Boston Children’s Hospitalによる子どもの術後回復スキル「My Children's Enhanced Recovery After Surgery(ERAS)」、病院ネットワークであるProvidence St. Joseph HealthとAtrium Healthのそれぞれが提供する急病診療所(ER)案内/予約スキルの「Swedish Health Connect」と「Atrium Health」、慢性疾患モニタリングを行うデジタル・セラピューティクス(DTx)企業のLivongo Healthが提供する、糖尿病患者向けの血糖値監視スキル「Livongo Blood Sugar Lookup」。ユーザーはこれらのスキルを利用することで、Alexaへの音声コマンドによって、健康に関するさまざまな質問をしたり、診察の予約や病院のロケーションの特定を行うことが出来た。

Amazonは、Alexaを他のヘルスケアやサポートサービスにも活用している。2021年9月には、高齢者の見守りサービス「Alexa Together」を発表している。Alexa Togetherは、高齢者が、ケア提供者や家族とのつながりを保ちながら自立した生活を送ることを支援する新しいサブスクリプションサービスで、ケア提供者や家族が、自宅から遠隔地に住む高齢者の家族を見守ることを可能にする。緊急対応ヘルプラインにハンズフリーで24時間365日アクセスできる緊急対応機能を搭載しており、サードパーティー開発の転倒検知デバイスと連携して、緊急連絡などのサポートを得ることも選択できる。高齢者の活動の様子を遠隔から把握するのを可能にする「アクティビティー・フィード」と呼ばれる機能は、毎日、高齢のユーザーがAlexaや他のコネクテッド・スマートホーム・デバイスと最初に「やりとり」したときに、家族やケア提供者に通知する。また、一定の時間までに全くアクティビティがなかった場合にも通知を行うことで、日常のルーティーンから外れたことを迅速に把握することを可能にしている。

Alexa Smart Propertiesは、病院やヘルスケアサービス・プロバイダー向けのサービスで、容易かつコスト効率の高い患者ケアの提供を支援する。HIPAA準拠のAlexaスキルは、患者が音声コマンドによって、さまざまなリクエストを病床から行うのを可能にしている。例えば、看護師やケアチームにヘルプを求めたり、症状について話し合ったり、音楽をはじめとするエンターテイメントを視聴したり、カフェテリアに注文を行ったりすることなどが出来る。

今回のサードパーティー開発HIPAA準拠医療サービススキルの終了は、ヘルスケア市場におけるAmazonのビジネス動向の最新のニュースである。Amazonはヘルスケア分野での地位を確立しようと、これまでにさまざまな試みを行い、挫折も経験してきた。金融大手のJPMorgan Chase、投資会社大手のBerkshire Hathawayと共同で2018年1月に共同で立ち上げた非営利のジョイントベンチャーであるHavenは「米国の壊れたヘルスケアサービスを改善する」と鳴り物入りでスタートしたものの、本格的な始動に至ることなく事業が終了することとなった。またAmazonは、ワシントン州シアトル在住の同社従業員向けにバーチャル・ケアと対面ケアを組み合わせた最良のハイブリッドケアを提供する目的で2019年9月に立ち上げたパイロット・プログラムの「Amazon Care」を、ニューヨークやサンフランシスコを含むシアトル以外の大都市においても雇用主向けに展開してきたが、8月には、雇用主向けAmazon Careの提供を2022年末で中止することを明らかにした。Amazonは社員宛ての電子メールで、Amazon Careは「雇用主顧客にとって持続可能な長期的ソリューションではなかった」と中止の理由を説明した。

(了)


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