2023/03/30
デジタルテクノロジーによって進化する歯科治療(第12回)
NTTデータ経営研究所に聞く「ICTを活用した医科歯科連携等の検証事業」【前編】
日本, AI技術, 臨床医, テレヘルス, 診断・検査・予測, 歯科・口腔外科
歯科オンライン診療・医科歯科連携で求められるテクノロジーとは
当たり前と思われるかもしれませんが、近年「体と同じように歯や口腔領域の健康が大切である」と世界的に取り上げられています。2022年11月、世界保健機関(WHO)は、世界人口の約半数に当たる35億人が虫歯や歯周病などの口腔疾患に苦しんでいると発表しました。約38万人が毎年、新たに口腔がんと診断されています。
WHOのテドロス事務局長は「これまで、グローバルヘルスの医学領域で口腔衛生は軽視されていたが予防可能であり、各国が口腔保健をプライマリーヘルスケアモデルに統合するべきである」と提言しました。1)
口腔衛生が軽視されてきた背景の一つに、歯科は医科に対して学術領域や保険制度の壁があり、医科と歯科の分断があるともいわれています。しかし、口は全身と繋がっており、口腔の健康が全身に関係している研究が知られてきました。
たとえば、日本糖尿病学会「科学的根拠に基づく糖尿病ガイドライン2019」2) では、糖尿病と歯周病は相互にリスクファクターであるとしています。また、著名な医学雑誌 The New England Journal of Medicine(NEJM)は誤嚥性肺炎の予防に対する「推奨」の下のグレードで口腔領域に関して、(1) 脳卒中や人工呼吸抜管後の嚥下評価、(2)ブラッシングと維持できない歯の抜歯による口腔ケアを「評価」しました。3) このように今、医科歯科連携が世界的な課題となっています。
医科歯科連携が難しい原因の1つはアクセスの問題です。たとえば、日本では歯科も標榜する病院の割合が低く、病院や介護施設に入院している患者が歯科受診する難しさがあります。さらに、世界的な医学雑誌LANCETが、口腔疾患は経済的に貧しい人や社会から阻害された人が偏って苦しみ、経済状態や健康の社会的な要因が関連していると報告しています。4)
このような問題を解決するのに期待されているのがICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)です。医科でオンライン診療が普及するなか、歯科でICTを活用するための検証が進んでいます。たとえば令和2年度から「ICTを活用した医科歯科連携等の検証事業」が行われています。この事業では大学や歯科医師会、厚生労働省のオブザーバを委員会として、ICTを用いた医科歯科連携や他職種連携のありかたが検証されました。5)
厚生労働省からこの事業を受託したのが株式会社NTTデータ経営研究所(以下、NTTデータ経営研究所)です。株式会社メドレー、株式会社メディカルネット、株式会社アイリッジの協力のもと実施し、2022年3月に2年目の事業を終了しています。
このシリーズでは、NTTデータ経営研究所ライフバリュークリエイションユニットのアソシエイトパートナーの朝長 大氏と、マネージャーの塙 由布子氏に、「ICTを活用した医科歯科連携等の検証事業」についてお話しを伺った内容を3回に分けて報告します。
Q1:「ICTを活用した医科歯科連携等の検証事業」が立ち上がった経緯を教えてください。
塙氏:歯科医師や歯科衛生士の介入で、入院患者や要介護高齢者等の入院日数が減少し、口腔衛生の悪化に伴う肺炎等の発症率が低下したり、認知症の発症リスク・進行が抑制したりする可能性が報告されています。医療費の面でも「口腔衛生の管理」の項目が診療報酬・介護報酬で評価されるなど、口腔ケアの必要性や医科歯科連携の重要性が指摘されています。
一方で、歯科を標榜している病院は病院全体の約2割、介護施設においても常勤の歯科専門職は少なく、歯科専門職の介入による口腔管理の推進や、介護職員と地域の歯科専門職の連携が求められています。
今、医療や介護の分野で急速にデジタル技術の導入が進んでいます。医科では働き方改革推進の動きやCOVID-19によってオンライン診療が普及しつつあります。私たちは歯科領域においても情報通信技術等を活用した診療の可能性について検証、課題整理を行うことを目的として、本事業を実施しました。
Q2: 事業の中で御社が関わられた内容について教えてください。
塙氏:本事業の受託者として実証・検証の企画・管理を行い、大学や歯科医師会、医療機関等に所属する有識者による検討委員会を設置し、実証・検証内容の検討を行いました。さらに、実証フィールド(現場)との調整や検証、成果・課題の整理、報告書作成を行いました。
前編では「ICTを活用した医科歯科連携等の検証事業」が行われた背景を説明しましたが、次回の中編ではその内容をさらに尋ねます。
(次回へ続く)
【出典】
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