2023/04/11
米国eHealthジャーナル第85号
AHA、ヘルスケアのデリバリーにおけるディスラプションを報告
保険テック, 研究・調査, Amazon, ジャーナル第85号, VC投資・M&A・決算, 薬局, 提携
非従来型プレイヤーが2030年までにプライマリーケア市場の30%を掌握
米国病院協会(American Hospital Association、以下AHA)は2月9日、ヘルスケアのデリバリーにおけるディスラプションの展望を分析する報告書、「Health Care Disruption 2023 Outlook」をリリースした。ディスラプションとは破裂や崩壊を意味する言葉であるが、ビジネスシーンにおいては「既存の物を破壊するような革新的なイノベーション」を指す。
同報告書によると、約2,600億ドル規模の米プライマリーケア市場はこれまで、従来的な医療サービスプロバイダーによって独占されてきたが、急速な変化が起こっており、2030年までに、Amazon、CVS Health、 Walgreens Boots Alliance(以下、Walgreens)、Walmartといった非従来型のプレイヤーが、この市場の最大30%ものシェアを獲得する見通しだ。
非従来型プレイヤーは、多額の資金を投じてプライマリーケア、服薬コンシェルジュ、バーチャルケア、在宅ケア市場へのプレゼンスを拡大している。例えばAmazonは2018年にオンライン薬局のPillPackを買収して処方箋医薬品薬局事業へ参入し、2020年にAmazon Pharmacyを立ち上げた。その後もヘルスケア分野での事業基盤を拡大しており、2022年7月には、会員ベースのプライマリーケアサービスを提供するOne Medicalを39億ドルで買収すると発表した。同取引は連邦取引委員会(FTC)による審査を受けていたが、Amazonは2月22日に買収取引の完了を明らかにしている。ほかにも、2022年11月にアレルギー疾患や皮膚疾患などの一般的な症状をオンラインで診療するAmazon Clinicを開始し、また、2023年1月には有料会員サービスである「Amazon Prime」の加入者を対象にジェネリック薬を注文できる月額制のサブスクリプション・サービス「RxPass」を開始した。RxPassでは高血圧症や不安障害、胃食道逆流症(GERD)をはじめとする80以上の症状を治療する、一般に広く処方されている50種類以上のジェネリック薬を扱う。月額5ドルで必要な量を購入することができ、送料は無料。AHAの報告書によると、Amazonは今後、大手小売に対抗するためにプライマリーケア事業の規模を拡大し、病院や医療システムとの提携拡大を目指す可能性がある。
AHAの報告書によると、Walgreensもヘルスケアに対する「オールイン・アプローチ」を採用しており、2023年は同社にとって極めて重要な年になると予想される。 Walgreensはプライマリーケアにおけるプレゼンス拡大に努めており、2021年10月にプライマリーケアを提供するVillageMDに52億ドルの投資を行ったほか、2022年8月には、複雑な症状や慢性疾患を持つ患者を対象に急性期後ケアと在宅ケアを提供するCareCentrixの55%を取得し、同社の経営権を手に入れた。その後同年10月には残りの45%も手中に収めCareCentrixを完全買収することでCareCentrixと合意している。同取引は2023年3月までに完了する見通しだ。Walgreensはこれらの投資を通じたヘルスケア事業由来の利益計上に期待を寄せている。VillageMDへの投資は、Walgreensの持ち分比率を63%に引き上げるもので、薬局店舗併設型の対面クリニック 「Village Medical」の増設を意図したものである。Walgreensによると、今回の投資により、2025年までに米国の30以上のヘルスケア市場で少なくともWalgreensの600店舗、2027年までには1,000店舗に、Village Medicalが併設される計画だ。新設されるVillage Medicalのうち半分以上は医療サービスが行き届いていない地域に開設される。Village Medicalは、CVS Healthが薬局小売店舗内で展開するアージェントケア・クリニック「MinuteClinic」と競合することとなる。
CVS Healthは2022年9月にテキサス州ダラス拠点のSignify Healthを80億ドルで買収すると発表している。Signify Healthは、50州に1万人の臨床医を擁するプロバイダーネットワークで、CVS Health傘下の民間保険会社Aetnaを含む50以上の保険プラン顧客を抱えている。CVS Healthは、同様にSignify Healthの獲得に関心を持っていたAmazonに競り勝ったと報じられている。さらに2月8日には、高齢者向けプライマリケアの提供に特化するOak Street Health(以下、Oak Street)を買収することで両社が合意したことを明らかにしている。買収金額は、1株あたり39ドル、総額約106億ドル。Oak Streetは医療ケアが特に必要とされる地域を中心として、全米21州に169の医療センターを持ち、約600名のプライマリケア医を擁する。独自のケアモデル・プラットフォーム「Canopy」は、個々の患者に最も適切なケアの種類およびレベルを判断することができるという。
CVS Healthは、傘下のAetnaのメンバーに対して、CVS Healthのサービスを利用するよう促している。
CVS Healthは、メンタルヘルスケアのためのバーチャルサービスや在宅医療サービスを拡大しており、消費者やAetnaのメンバーをCVS Healthのケアチームにつなげようとしている。AHAは報告書の中で、病院や医療システム、医療サービスプロバイダー、ペイヤーらに対し、今年にCVSヘルスがさらなる取り組みを行うかどうかを注視するよう助言している。報告書においてAHAは、「同社は30億ドルを投じて、顧客体験を向上させるためのさらなるデジタル強化を行う予定である」と述べた。
一方、AppleとGoogleは、ヘルスケア分野への進出において、プライマリーケア市場以外に目を向けている。AHAによれば、ハイテク大手はその技術を利用して、ペイヤー、医療システムなどと提携関係を構築することに力を入れている。
(了)
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