2023/06/13

米国eHealthジャーナル第89号

夜尿症専門の遠隔医療サービス「Vamio Health」

Vamio Health, ジャーナル第89号, テレヘルス

オンラインで患者プライバシーを確保し、低迷する受診率の改善へ

国際小児禁制学会(International Childrens Continence Society : ICCS)、欧州小児泌尿器学会(ESU)が制定する「世界夜尿症ウィーク (World Bedwetting Week)」が先週一週間、6月5日から11日まで開催された。疾患を啓発するセミナーやオールドメディアの記事で、久々に「夜尿症」の存在を思い起こされた読者の方もいることだろう。

就寝中に無意識に排尿してしまう夜尿症は、決して珍しくない疾病である。米国では6歳以上の児童の凡そ10パーセント(500~700万人)が罹患しており、各国間でも差異はほぼみられない。
しかし、実際に医療機関を受診する患者は少なく、日本国内の調査によれば、医療機関を受診したことのある患者/家族は全体の僅か20パーセント、定期的に治療を継続している患者/家族は10パーセントに過ぎないことが分かっている。排泄(泌尿器科)という極めてプライベートな性質の疾病であるだけに、患者/家族が相談することを憚り、孤立して思い悩むケースが少なくないようだ。

実は編集者自身、小学生高学年になっても夜尿症に悩んでいた一人である。大袈裟に告白と銘打つつもりはないが、「やってしまった...」という当時の息苦しさ・罪悪感は、齢半世紀が経っても鮮明に蘇るものがある。

本稿では、臨床現場で患者である児童とその家族に臨床現場で相対し、悩みを受け入れてきた小児科医が立ち上げた、夜尿症を専門とする遠隔医療サービス「Vamio Health」を紹介しよう。
※2ページ目には、同社プレスリリースの翻訳文を添付する。

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テキサス州オースティンを拠点とする Vamio Health社 (OFFICITE (MH SUB I, LLC)) は4月14日、夜尿症を専門とする遠隔医療サービスの立ち上げを発表した。 

夜尿症は最も一般的な小児慢性疾患である一方、専門的なケアへのアクセスが限定的なアンメットニーズの領域である。
米国では6歳以上の児童500万人が罹患しているが、アメリカ小児科学会によれば、殆どのケースにおいて介入は不要で成長するに連れ解消するが、10歳台まで続く場合もある。
その原因には、膀胱の成熟の遅れで生じた膀胱容量の不足や、夜間の尿量を減らすホルモンのレベル低下など、様々な原因が考えられる。一方で、繰り返す場合は、尿路感染症、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害、ADHDなど、基礎疾患が原因である可能性があり、専門家の診療が必要とされてきた。

(出典) Shutterstock

Vamio Health社の遠隔医療プラットフォームでは、患者家族(親など)が初診をオンライン予約。自宅へ配達される尿検査キットの検査結果とともに診療を受けるフローとなる。診療時には治療計画が話し合われ、尿の水分を感知してアラームを鳴らすおねしょアラームなど行動療法、基礎疾患の治療、薬物療法などで介入する。

 
(出典) Vamio 

新型コロナ禍は、感染防止の観点から社会的距離(ソーシャルディスタンス)の制約下、対面を避ける遠隔医療サービスが様々な形態で展開する契機となった。現在では、一般的な慢性疾患の他、花粉症、に留まらず、性的健康(性感染症、ピル、避妊)や脱毛症のような、デリケートな個人的な健康問題(需要)・悩み事に対する新しい需要に応えている。
夜尿症もデリケートな疾病である。子どもの自尊心を傷つけ、社会的発達に悪影響を及ぼす他、寝具の洗濯やおむつの購入など経済的負担から、患者家族にも深刻なストレスを及ぼしかねない、患者と家族がくつろいだ状態で診療する機会をリモートで提供することで、従来の対面診療と比較しても同様に効果的なフォローアップ結果が得られたという研究結果も同時に明らかとなった。


Bedwetting is nobody’s fault
It’s a common medical condition that can and should be treated
> 夜尿症は、患者や患者家族の責任ではない。
> 珍しくない、治療対象の疾病だ。
これは、「Bedwetting Week」サイトに掲げられている標語である。
相談できる医師に、安心してかかれる Vamio Health社のような取り組みは、是非日本でも真似て欲しい。


【編集後記】
ある女性タレントの告白記事が目に留まった。
どうやら、故・安倍首相と同じように、消化器系の疾患を患っているようである。
そのコメント欄に、会議を途中退出した過敏性腸症候群(IBS)患者に対する、上司の心無い言葉が紹介されていた。
「何で会議の前にトイレに行っておかないんだ!」
突然の便意は自己管理意識が足りないからだと、どうやら決めつけられているようだ。
真のところIBSはコントロールが難しく、緊張が原因の一つともなる難病だ。
会議の性質が緊張を招くものである場合、患者本人は打つ手なしの場合も多いと聞く。
見え難い、伝わり難い特徴の疾病は少なくない。
どうやら夜尿症も家庭内の恥として隠される傾向にあるようだ。
「何で寝る前にトイレに行っておかないんだ!」は、逆効果となる典型的な悪手である。
わざわざ例示されている位なので、世間では珍しくないのだろう。
寝小便ぐらいで病医院にかかるなんて、という意識が変わる日が近いことを願いたい。


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