Amazon のAlexa にHIPAA 準拠医療サービスが登場

音声コマンドで提供されるヘルスケア関連サービス

Amazonは4月4日^*1 、同社の人工知能（AI）搭載デジタルアシスタント「Alexa」のスキル^*2 に、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律（HIPAA）^*3 に準拠した医療サービスが加わると発表した。

これまで医療分野では、Alexaのような音声アシスタントは幅広い普及に至っていなかった。これは、コンプライアンス上の懸念と、HIPAAが大きな障壁となっていたためだ。ヘルスケアに照準を定めるAmazonが、また大きく歩を進めた。

新スキルは、Amazonから招待を受けた6組織によって作成される。ユーザーは、Alexaへの音声コマンドで、健康に関するさまざまな質問をしたり、診察の予約や病院のロケーションの特定が行えるようになる。

4日に発表された新たなスキルは、

• 薬剤給付管理会社（PBM）^*4 のExpress Scriptsによる処方箋医薬品メールオーダー管理スキルの「Express Scripts」、
• 民間医療保険大手のCignaによるメンバーのための健康増進スキルの「Cigna Health Today」、
• Boston Children’s Hospitalによる子どもの術後回復スキル「My Children’s Enhanced Recovery After Surgery（ERAS）」、
• 病院ネットワークであるProvidence St. Joseph HealthとAtrium Healthのそれぞれが提供する急病診療所（ER）案内/予約スキルの「Swedish Health Connect」と「Atrium Health」、
• 慢性疾患モニタリングを行うデジタルヘルス企業のLivongoが提供する、糖尿病患者向けの血糖値監視スキル「Livongo Blood Sugar Lookup」

の6種類。

Boston Children’s Hospitalは4年前からAlexaを導入している。2016年には、子供の病状についてアドバイスを行うスキル、「KidsMD」を開発し、こういった取り組みにおけるパイオニア的な存在となっている。

ユーザーは、KidsMDを開き、投薬や体温、病院に行く必要性などについてAlexaに質問をすることが可能だ。KidsMDは一般的な医療情報を提供するスキルで、患者の個人情報は取り扱わないため、HIPAA遵守の問題が起こらない。

Boston Children’s HospitalはKidsMDの他に、Alexaのパイロットプログラムとして、臓器移植手術前に実行する、臓器検証および手術チェックリストのプロセスを音声化して簡素化するスキルや、 ICUにおいて、担当看護師は誰か、ベッドはいくつ空いているかなどの管理情報を提供するスキルを開発している。こういったスキルは患者データを取り扱うものであるため、実用化においてはAlexa のHIPAA遵守が必要だった。

Beth Israel Deaconess Medical Center（BIDMC） も、Alexaのパイロットプログラムを実施している病院の1つだ。

パイロットプログラムでは、本当の患者ではなく被験者を利用した入院セッティングにおいて、以下のような質問やリクエストに対応するスキルを開発した。

• 部屋番号は何？
• ケアチームには誰がいるの？
• 今日の食事は何？
• 看護師を呼んで
• 何かインスピレーションを与えて
• スピリチュアルなケアが欲しい
• ソーシャルワーカーを呼んで
• 今日のケアプランの内容は何？
• ＸＸ医師はいまどこにいるの？

BIDMCは、スキルによって看護師は雑用から解放され、より重要なタスクに集中することが可能となる、と述べている。当時のAlexaはHIPPAに準拠していなかったため、BIDMCでは患者情報を匿名化して、質問者の特定につながらないデータ^*5のみを利用していた。BIDMCは当時、 AlexaがHIPPAに準拠できれば、すぐにでもスキルを実用化すると意欲を見せていた。

(了)

*1)  https://developer.amazon.com/ja/blogs/alexa/post/ff33dbc7-6cf5-4db8-b203-99144a251a21/introducing-new-alexa-healthcare-skills
*2)「Alexaスキル」とはスマホでいうアプリのようなもので、第三者によって開発され、導入することによってAlexaの機能を拡張する
*3)  医療情報のプライバシーを保護する包括的な連邦法として1996 年に制定されたHIPAA （Health Information Portability and Accountability Act）とその後2009年に制定されたHITECH（Health Information Technology for Economic and Clinical Health Act）は、医療情報の機密性を踏まえ、医療情報の保護責任を持つ事業体がプライバシーとセキュリティを確保するための様々な対策を講じることを義務付けている
*4)  医薬品給付サービスを保険企業に代わって行う中間業者で、製薬企業との医薬品価格交渉や薬局に対する保険償還を担う
*5) HIPAA 18 identifiers (i.e. names, social security numbers, addresses etc.) are not included in the data stream.

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