2022/09/08
ヘルスケアの現場から考えるデジタルヘルス(第7回)
個人の健康記録がひとつにまとまるアプリ、“MyChart” 【後編】
電子カルテの技術進化が満たす、Patient-Centered Careの8つの原則
Patient-Centered Care8つの原則
医療において何よりも大切なことは、患者さん目線からの利用しやすさである。そのためには、患者さんが個人として認識され、ひとりひとりの価値観や希望が尊重され、患者さん本人が主体的に関わることのできる、患者さん中心型のアプローチが重要となる。
1980年代後半に、退院直後の患者さんや家族、医師、医師以外の病院スタッフからなる様々なグループと関連文献を検討した研究、およびその後の追加検討によって、患者さん中心の医療のための8つの主要な因子が定義された。これは、研究に関与した施設の名前にちなんで ”the Picker Principles of Patient-Centered Care(患者中心ケアのピッカー原則)” として知られる(1)(2)。
具体的には、以下の8項目となる。
1) 患者の価値観、好み、表明されたニーズを尊重すること
2) 情報および教育
3)ケアへのアクセス
4)感情的な恐怖や不安を和らげるサポート
5)家族や友人への関与
6)医療環境間の継続性と安全な移行
7)身体的な快適さ
8)ケアの協力体制
患者さん中心の医療のためには、患者さんの細かい情報をひとつにまとめ、種々の医療スタッフが最新の情報を共有できるようにしておく必要がある。そのニーズに応えるツールの一つとして、電子カルテがある。前編でも触れたが、電子カルテのおかげで、患者さんの情報をすぐ登録、検索でき、スタッフ間での円滑なコミュニケーションが可能になった。つまり、電子カルテのおかげで患者さんの希望を尊重したよりよい医療を提供できるようになったのである。当初電子カルテの利用は病院や診療所に限られたものであったが、これがさらに、患者さん自身が使用可能な形に進化した。その代表例が、今回紹介したモバイル・パーソナル・ヘルス、”MyChart”である。
“MyChart”と8つの原則
”MyChart”を上述の8項目に照らし合わせてみると、以下の通り、そのほとんどをカバーしていた。
アプリのメニューには、診療記録のほか、患者さんの希望を最大限に尊重した治療の目標が記載されている。次回の受診にするべきことなどの計画が主治医によってリストアップされており、信頼のおける医療者による効果的な治療がなされる基盤を形成している。
医療機関とメッセージ交換をすることができることも特徴である。送信する際は、「急ぎでない医療相談」「処方内容の質問」「検査結果の質問」「再受診についての質問」「紹介状の希望」などのカテゴリーに分け、受診の必要性や処方された薬の使用法の相談をすることができる。もちろん医療スタッフ側にも素早く対応する努力が必要となるが、つながりにくく記録の残らない電話に代わって、自己管理を支援するための分かりやすい情報や不安感のサポートが可能となっている。また、これらのコミュニケーションのために、信頼できる医療アドバイスへの素早いアクセスが確保される。
患者さんや医療従事者のみならず、家族向けにも受診記録をダウンロードすることができるため、家族や友人の関与をもサポートしてくれる。
社会福祉士や学校の保健師などにアプリを通して情報を共有することができ、関係者が一丸となって患者さんを中心としたケアが実現できる。
事前に十分な連絡が取れるため、実際の受診時には効率の良い診療を受けることが出来る。
医療機関内で適切に情報が共有できることは、不要な問診の反復を防ぐことにもつながっている。
このようにPatient-Centered Careの8つの原則に則した機能が”MyChart”にはあったため、筆者が実際に患者としてこのアプリを使用して非常に満足することができたのである。
現在アメリカにおいては、90種類以上のモバイル・パーソナル・ヘルスが市場に出回っているが(3)、慢性疾患患者を除いたアメリカ成人の約7%が使用するにとどまる、とのデータがある(4)。使用を妨げるのは、医師がきちんと記録をしていない、自分で記録をとったほうが良い、という利用者の考え(5)のほか、アプリのデザイン自体も影響している(4)。
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