2022/10/28

メンタルヘルス・精神科医療におけるデジタル技術の活用(第1回)

睡眠におけるアプリやウェアラブルデバイスとの関連【前編】

診断・検査・予測, 患者データ・疾病リスク分析, ウェアラブル, 睡眠障害, 日本, 疾病管理・患者モニタリング, デジタルセラピューティクス, 臨床医, 医療機器

睡眠・覚醒障害について

(出所:Shutterstock)

睡眠は人の生活の時間の中で約3分の1を占めています。また、身体に必要な機能を維持するのに重要な役割を持ち、人々の健康を支えています。

適切な睡眠が妨げられることで、不眠、睡眠過多、睡眠時の異常行動などが現れることがあります。そして、時に免疫力低下などの身体機能の低下や、身体・精神疾患の発症リスクの増加への悪影響を及ぼすことが示唆されています。このような様々な影響が労働生産性の低下にも関わることとなり、睡眠に対する健康意識は年々高まり重要性も認識されるようになりました。しかしながら、睡眠で悩む人々は年々増加しています。睡眠・覚醒障害のなかでも不眠症 (不眠障害)は最も有病率が高いとされ、十分な睡眠の機会があるにも関わらず、十分な量または質が維持できずになんらかの状況下で機能障害をもたらすものと定義されています。1)2)

睡眠・覚醒障害の診断は問診を主としている医療機関が多いですが、検査として評価の精度が高いものとして広く容認されているのは、さまざまなセンサーを用いたポリソムノグラフィー (PSG)です。睡眠のパターンを把握し診断につなげますが、検査機器は高額で、普段と異なる環境下で複雑かつ多くのセンサーを装着の上で臥床して計測するため、しばしば入眠が困難な場合があります。このことから導入されている医療機関は限られ、睡眠・覚醒障害の診断基準を満たしながらも受診につながらず治療につながらないままでいらっしゃる方が存在するのが現状です。

治療については睡眠・覚醒障害の分類にもよりますが、睡眠衛生指導、薬物療法、そして必要に応じて認知行動療法が行われます。3)  特に不眠症に対する認知行動療法は、薬物療法と同等の効果が期待されています。しかしながら、日本においては保険診療上の課題もあり、認知行動療法については普及が進んでいない状況にあります。

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睡眠と精神疾患
睡眠・覚醒障害は、時に抑うつや不安、認知機能変化を伴うことがあります。また、精神疾患の発症の前駆症状であることも多く、重症化の予防や不眠症状の程度により、軽減するための早期介入を検討します。実際の精神科臨床現場においても、睡眠・覚醒障害の是正は優先的に行います。

精神疾患が睡眠の状態に変化をもたらす例として、うつ病の急性期においては、多くて90%の患者さんに現れることが示唆されています。4) またアルツハイマー型認知症においても、睡眠や概日リズムのコントロールに変化が生じます。これは視床下部や前脳基底部と呼ばれる部位に認知症に伴う変性が加わることで、同部位に含まれる睡眠と覚醒に関する調節回路が障害されるためと言われています。

また精神疾患でなくとも、職場で受けるストレスチェックにおいて、睡眠の問題はその結果に影響をもたらします。睡眠の問題がない人が高ストレス判定に該当した人は2.3%に対して、問題がある人は16.9%であったという報告もあります。5) このため、睡眠の問題は職場でのプレゼンティズムへの影響の一因にもなりうることが想定されます。

(出所:Shutterstock)

睡眠とウェアラブルデバイス
これまで限られた機関でしか受けられなかった睡眠検査において、客観性を損ねずに簡易に施行できないかを検討されてきました。そして現れたのが、小型脳波計や筋電計の他、アメリカのAMI社が開発した腕時計型のアクチグラフィと呼ばれている機器です。

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