2023/02/01
精神医療とデジタルツールの可能性(第4回)
中年期以降における簡易認知機能評価スケール 『あたまの健康チェック®』 【前編】
日本, デジタルセラピューティクス, 疾病管理・患者モニタリング, 患者データ・疾病リスク分析, 診断・検査・予測, テレヘルス, 医療コミュニケーション支援, 臨床医
開発に至った背景と現状について
読者のみなさんが普段生活を送る中でも、日本社会の高齢化が進んでいることを身近に感じる機会が増えていることは、想像に難くない。一方で、認知症患者の増加とそれが及ぼす影響について、世間ではどの程度認識されているだろうか。2025年には高齢者の5人に1人が認知症になるとされており、令和元年時点で65歳以上が要介護者となる原因は認知症が約18%で最多となっている。1) 要介護者が増えることは、介護を理由に離職する家族の増加、介護職の人手不足、老老介護の増加など、その影響は多岐にわたる。
令和元年6月に、認知症施策推進関係閣僚会議において「認知症施策推進大綱」が取りまとめられ、「共生」と「予防」を車の両輪として施策を推進していくことが掲げられた。2) ただし、これは認知症に対する有効な治療法がないことの裏返しでもある。だからこそ、早期発見・早期介入を行い、発症を遅らせる「予防」が何よりも重要である。
認知症の早期発見に関する研究は、もちろん精力的に行われている。例えば、アプリ上で病歴確認や検査を行う方法3)や、眼球運動を測定する方法4)で、軽度認知障害(MCI)を早期発見しようというものがある。しかし、前者は簡便ではあるが検査の信頼性が担保されない一方、後者はその逆であり、実際本邦で普及する目処は立っていない。これから本記事で紹介する「あたまの健康チェック®」は、まさにこの問題点を解決しうるデジタルツールとして注目に値する。
「あたまの健康チェック®」スケールの対象・カバーエリア
このツールは、2004年に米国で開発された、ADAS-Cog*1 単語リスト記憶検査のデータ分析と評価アルゴリズムを用いた人口統計解析法が採用されており、米国では民間保険加入時の査定項目として今も用いられている。国内では、2006年よりセントケア・ホールディング株式会社(証券銘柄コード:2374)傘下の株式会社ミレニアが包括提携に基づき、日本語版を開発・提供しており、日米の総被験数は200万件超の実績をもつ。5) この認知機能評価ツールは、30歳以上のもの忘れの訴えが無い人を対象としており、インターネット環境と検査者がいれば、どこでも実施可能である。実際の評価では、複雑な計算などは要さず10分程度で終えることができるだけでなく、検査者を補助する独自のインターフェースに沿って検査実施することにより、検査者の知識や経験、職能にかかわらず検査の信頼性も担保される。さらに、企業や病院・健診施設が契約してサービスを提供するだけでなく、個人で検査を受けたいと思った場合も、4,378円(税込)で専用コールセンターサービスによる個別受検が自宅から電話で受けられる。このように、「あたまの健康チェック®」は、若年層や健常~MCI域での評価精度が低い点や検査者の違いにより生じる評価結果の差異等、従来のツールの欠点をうまく補っていることもあり、その応用範囲は多岐にわたっている。
最も活用されている領域の一つが、健診領域である。日本脳ドック学会により脳ドックのガイドライン2019[改訂・第5版]*2 が改訂された際には、これまで「脳卒中のための医学会」としていたところを「脳卒中と認知症予防のための医学会」へと呼称刷新され、認知機能検査が必須検査項目に追加された。このような流れもあってか、脳ドッグの検査項目の一つとして「あたまの健康チェック®」が採用される事例が増加しているようだ。
また、研究領域でも利用されており、その代表的なものとして認知症予防レジストリIROOP6) がある。これは、AMED研究事業*3 として国立精神・神経医療研究センターが主導して行った事業で、40歳以上の健常者からMCI群までを含む治験参加を想定した大規模なインターネットを介したデータベース構築である。ここでも「あたまの健康チェック®」が認知機能のプライマリ指標として半年ごとに実施され、全身状態やライフスタイルに関する膨大なアンケート情報と共に認知機能の推移が取得されている。このような各研究内容や、「あたまの健康チェック®」自体の詳細などは、次回の記事で詳述することとする。
最後に、「あたまの健康チェック®」の、もう一つの大きな特徴を紹介したい。
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