2023/02/22
臨床医が紹介する日本のスタートアップ技術(第26回)
いつもの生活が予防医療になる、Xenoma
臨床医, 疾病管理・患者モニタリング, ウェアラブル, 医療機器, 診断・検査・予測, 日本
「e-skin」がもたらす日常での心電図計測
近年、ヘルステックにおけるウェアラブルデバイスの開発、リリースは目覚ましいものがあります。Apple WatchにGoogle Fit対応のスマートウォッチ、スリープテックのスマートリングOura Ringなど、特に一般の方が気軽にヘルスケアを意識し、データを取得できるウェアラブルデバイスが話題となっています。
そんな中、「服」の着用でホルター心電図を計測できるサービス「e-skin ECG」が、東大発ベンチャーの株式会社Xenoma(以下、Xenoma社)により、慶應義塾大学病院との共同研究を経て開発されました。着衣型の心電図計測システムによって、専門的知識を有さない受検者でも自身で装着し、3誘導(3つの心電図波形)の心電図計測を実施することが可能となっています。
医療従事者の方であればわかると思いますが、不整脈の検出目的に24時間計測を行うホルター心電図の計測は、ハードルの高い検査です。患者さんが病院に来てホルター心電図を装着し計測、翌日病院に返却という頻回な来院をする必要があります。一方で侵襲的な検査ではないので、動悸や意識が遠くなる感じがするなど、不整脈の症状をもつ患者さんには積極的に行いたいと、医師としては考えています。しかし、患者さんにとってハードルが高いこともあり、医師としては検査を躊躇してしまう部分もあるかと思います。
Xenoma社が提供する、衣服型IoT(Internet of Things)デバイスの「e-skin」は、着心地が良く、洗濯もできます。同社が開発した、自由に変形・伸縮する世界初の布状電子回路基板Printed Circuit Fabric(PCF)によって、従来の布に形成した配線やセンサーに高い引張耐久性と洗濯適性を付与する技術を確立しています。このPCFを活用した「e-skin」によって、いつでもどこでも着るだけで人の情報をモニタリングできるようになりました。さらに、将来的には人の生体情報ビッグデータから予防医療や安心・安全な社会の実現に貢献することを目指しています。
また、「服」で計測するという発想は、非常に斬新です。誰もが毎日着用している服は、人にとって身に着けることが最も自然であり、生活スタイルを変える必要がありません。また、服は体の広い範囲にアプローチできるため、より高度なヘルスケアを提供する基盤となります。より多く、より質の高いデータを取得することによって、AIによるビッグデータ解析の効果を最大限に発揮することができると考えたそうです。
この次世代スマートアパレルを使った「e-skin ECG」のサービスは、2022年3月より保険適用が開始され、医療機関での診察を通じて利用が可能となっています。さらに、郵送によるホルター心電図検査サービスを同年5月より開始しています。自宅に検査キットが郵送されてくるため、患者さん自身で計測し、使用後にキットを返送することで心電図の解析を行うことができる、非常に有用なサービスです。
今回、Xenoma社代表取締役CEOの網盛一郎様へインタビューさせていただきましたので、その内容の一部をご紹介します。
Q. 着衣型のホルター心電計検査サービス「e-skin ECG」について、新たな機能が患者の方々の生活、そして医療従事者にどう影響を及ぼすのでしょうか?
網盛氏 『まず、従来のホルター心電図検査に比べ、衣服型なので日常生活に支障がありません。また、患者様にとって患者自身が自宅で着脱ができるため、郵送による検査の実施が可能になります。これにより患者様の病院への来院回数を減らすことができるため、医療機関へのアクセスに対する地域差を軽減し、ホルター心電図検査への忌避も減少します。
次に病院にとって購入不要で、在庫を持たずに運用することができます。したがって在庫数を気にする必要がなく、必要な時に検査の申し込みを行うことができ、検査数アップに貢献することができます。
さらに検査機器に関するサポートをXenoma社が担当するため病院側の手間を省くことができます。それにより医療従事者の手間を従来より軽減することができますね。
上記を踏まえ心電図検査数を増やすことにより、心房細動の早期発見予防(日本人の死因2位「心疾患」)に貢献したいと考えています。』
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