2023/02/28
米国eHealthジャーナル第83号
BioNTech がInstaDeepを買収
BioNTech, VC投資･M&A･決算, 創薬, AI技術, ジャーナル第83号
AIとMLを利用した医薬品開発に乗り出す
BioNTechは1月10日、企業の戦略的意思決定を支援する人工知能（AI）システムの開発に特化するInstaDeepを買収することで両社が合意したと発表した。ドイツ拠点のバイオテク・スタートアップ企業であるBioNTechは、世界で初めて新型コロナウイルス感染症（COVID-19）ワクチンを開発したことで知られている。一方のInstaDeepは、2014年に北アフリカのチュニジアで設立されたスタートアップで、現在は英国ロンドンを本拠とする。同社は、GPU（Graphics Processing Unit）コンピューティング、深層学習、強化学習における専門知識を活用し、さまざまな産業や分野の「最も複雑な課題（InstaDeep）」に対処するAIシステムを構築している。強化学習は、機械学習（ML）のひとつで、試行錯誤を繰り返して適切な制御方法を学習していく技術。BioNTechとInstaDeepはこれまでも提携関係にあり、2020年にはAIイノベーションラボを共同で設立し、これまでに数十の共同プロジェクトを完了している。
InstaDeepは、「DeepChain」と呼ばれるタンパク質設計プラットフォームを擁しており、NvidiaやDeepMindといった企業と協業している。Nvidiaは、グラフィックボードに搭載されている演算用プロセッサであるGPUの大手メーカーとして知られるが、ヘルスケア領域における同社技術の活用にも取り組んでおり、2018年にはAI基盤のメディカル・イメージング・プラットフォーム、「Clara Discovery」をリリースしている。 Clara Discoveryは、最新の計算創薬に対応するプラットフォームで、GPU で高速化され、最適化されたフレームワーク、ツール、アプリケーション、学習済みモデルを備えている。Nvidia によると、Clara Discoveryは分野を超えたさまざまなワークフローをサポートするように構築されており、科学者や研究者がより速く医薬品を市場投入できるよう支援し、病気のメカニズムに関する研究に新たな可能性をもたらす。Alphabet 傘下のDeepMindは、ディープ・ニューラルネットワークと強化学習アルゴリズムの2つの研究領域を統合することで、知性を解明することをミッションとして掲げている。同社は、未知のタンパクのアミノ酸の構造を数分、あるいは数時間で予測する方法を学習した、タンパク構造予測AIシステムである「AlphaFold」を擁している。
出典：InstaDeep
InstaDeepを買収することにより、BioNTechは、検証済みの新規AI および ML基盤モデルを医薬品発見プラットフォームに組み込み、DeepChainを介して自動化ラボ・インフラストラクチャに接続する計画だ。それにより、新規医薬品候補の大規模なハイスループット設計と検証が可能になり、アンメットニーズの高い疾患に対処する次世代免疫療法とワクチン開発のためのAI創薬の専門性構築という、BioNTechの事業戦略を強化できるとBioNTechは期待する。
合意の下BioNTechは、約3億6,200万ポンド（約4億4,050万ドル）の現金と株式の組み合わせにより、未所有のInstaDeep株式を全て取得する。なお、 InstaDeepの株主は、今後の業績に応じて、最大約2億ポンド（約2億4,400万ドル）のマイルストーン金を受領する可能性がある。
両社は買収取引の2023年前半の完了を見込んでいる。
（了）
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