2023/04/25
米国eHealthジャーナル第86号
BlueRock Therapeutic、Rune LabsおよびEmerald Innovationsと提携
パーキンソン病, ジャーナル第86号, 提携, 疾病管理・患者モニタリング, Rune Labs, 神経変性疾患, ウェアラブル
パーキンソン病の臨床試験における患者モニタリングとデータ収集の改善へ
BlueRock Therapeutics(以下、BlueRock) は3月14日、パーキンソン病(PD)の臨床試験における患者モニタリングとデータ収集を改善する目的で、Rune LabsおよびEmerald Innovations(以下、Emerald)と提携したと発表した。マサチューセッツ州ケンブリッジを拠点として、遺伝子組み換え細胞療法の開発に注力するバイオ製薬企業のBlueRockは、ドイツの製薬大手Bayerと投資会社のVersant Venturesが2016年に設立した合弁会社としてスタートし、Bayerによる2019年の買収を経て、現在はBayerの完全子会社として運営されている。
本提携では、ウェアラブルおよび非接触のデジタルヘルス技術の利用に焦点を当てる。現在、PDの臨床試験におけるモニタリングとデータ収集は、日記やアンケートなどの主観的な患者報告ツールと、臨床現場で実施される定期的な神経学的評価や運動能力評価を組み合わせて行われている。このアプローチでは、疾患の進行や、制御不能な振戦(手のふるえ)や硬直、浅い眠り、バランスの喪失といったPDの症状が、患者の日常生活に及ぼすリアルタイムの影響について完全に把握することはできない、とBlueRockは説明する。
BlueRockのプレジデント兼CEOであるSeth Ettenberg氏は、「PDは非常に複雑な疾病で、1日のうちで症状が刻々と変化することがよくある。臨床試験での患者の報告負担を軽減し、病気の進行をより効果的に測定・評価するためには、新しいツールやアプローチが必要だ。Rune LabsとEmerald Innovationsのチームと協力し、彼らのデジタルヘルス技術を活用することで、疾患の影響を客観的かつ継続的に測定する手段にアクセスできることをうれしく思う」と述べた。
2018年に設立されたカリフォルニア州サンフランシスコ拠点のスタートアップ企業Rune Labsは、Appleのスマート・ウォッチ「Apple Watch」経由でPD患者の症状データを自動収集するソフトウェア・エコシステム「StrivePD」の開発で知られる。2022年6月にFDAから510(k)経路で承認を受けたStrivePDは、運動障害データ収集のためのアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)である「Movement Disorder API」を活用して、患者データをApple Watchから直接捕捉するモバイルアプリ。Movement Disorder APIは、Appleのオープンソース・ソフトウェアフレームワークの「ResearchKit」で2018年から提供されている。ResearchKitは、Apple製デバイスに搭載された歩数計、心拍数センサー、加速度計、ジャイロスコープ、GPSなどを活用し、デバイス利用者のデータの遠隔収集を実行するアプリを、医療研究者やアプリ開発者が容易に構築できるよう支援するフレームワーク。
StrivePDは、振戦(手のふるえ)やジスキネジアを自動で追跡し、PD患者の診察から次の診察までの間に起きた「経験」をケアチームと共有するのを可能にする。ジスキネジアとは、身体の一部または広範囲の筋肉が自分の意思とは関係なく不随意に収縮や運動を起こし、姿勢保持や動作が困難になる現象を指す。また患者は、StrivePDを利用して、医薬品の服薬状況や副作用、その他の症状をマニュアルで記録することも可能だ。
出典:Rune Labs
BlueRockは、Rune Labsが新たに立ち上げた臨床開発支援プラットフォームの「StriveStudy」を活用して、Apple Watchの装着頻度を追跡することで患者のコンプライアンスを監視するとともに、データ収集を合理化して患者の試験体験を向上させることを期待している。
マサチューセッツ州ケンブリッジ拠点のEmeraldは、 Massachusetts Institute of Technology(MIT)の教授・研究者らが設立したスタートアップ企業で、ウェアラブルデバイスを使わずに、電波からバイタルサインなどを捕捉する「インビジブル(invisibles)」と呼ばれる新クラスのセンサーを開発している。Emeraldが開発した「RF-Capture」と呼ばれるデバイスは、ワイヤレスシグナルを送信し、シグナルの反射からヒトの姿や動きを再構築するシステムで、人工知能(AI)アルゴリズム分析を組み合わせて、完全ワイヤレスの患者モニタリングを実行する。BlueRockとの提携では、Emeraldのセンサーを被験者の自宅に設置し、患者の歩行速度、移動能力、睡眠の質に関するデータを収集する予定だ。
BlueRockは現在、PDの標準治療の変革に取り組んでおり、幹細胞を基盤とするファーストインクラスの治療薬候補、bemdaneprocel(開発コード:BRT-DA01)を、フェーズI臨床試験段階で開発している。 Rune LabsおよびEmeraldとの提携に基づき実施する非介入研究では、両社の技術を使用して、PD患者50名の日常生活モニタリングと疾患進行の主要マーカーの測定を行う予定だ。BlueRockは、両技術を使用したデータを標準的な測定ツールと比較し、BRT-DA01の将来の臨床試験における両技術の使用可能性を評価する。
(了)
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