2023/06/15

臨床医が紹介する日本のスタートアップ技術 (第32回)

「生きる」に寄り添うテクノロジー、MEDITA

産婦人科, 臨床医, フェムテック, 日本, デジタルセラピューティクス

(出所:Shutterstock)

女性特化型健康経営プラットフォーム「Aidy」

最近、〇〇テックという用語が流行っていますが、Femtech(フェムテック)という言葉を聞いたことはありますか?一般社団法人Femtech Community Japanによると、FemtechとはFemale(女性)×Technology(テクノロジー)を掛け合わせた造語で、女性のヘルスケアに関わる課題をテクノロジーで解決する分野を指しているとのことです。1)

そんなFemtech関連企業の1つとして注目しているのが、株式会社MEDITA(以下、MEDITA)です。MEDITAについては、以前、LSMIP内において「ウェアラブルセンサーによる体温変動の研究開発を行うMEDITA」の記事で紹介しております。その後、MEDITAは新しい体制のもと、女性特化型健康経営プラットフォームである「Aidy」の提供を開始しています。このサービスは、若年層から更年期まで、すべての働く女性のために、心身の健康について予防から対策まで一貫してカバーする健康経営支援です。2)


(出所:MEDITA)

「Aidy」の基本プランは、3つの要素からできています。
① 女性心理や母性看護の研究者と共に作成した、性差等を踏まえ女性心理や女性の身体の不調を鑑みたうえで、女性ならではの心身の健康度合を尺度化し、自分自身の健康の可視化から「自分を俯瞰する」事ができるオンライン質問集
② 女性のみで構成された、専門家に健康相談が出来るチャットシステム
③ 体調が悪くなった場合や咄嗟の出来事の場合も、お手洗いなどのプライバシーが守られた場所に置いてあるIoTボックス「Aidybox」から、サニタリー用品やOTC薬品などが非対面で入手できるシステム
女性特化型健康経営プラットフォーム「Aidy」
(出所:MEDITA)

さらに今年5月に、MEDITAはオンライン診療の連携開始を発表しています。3) 「Aidy」内のオンライン診療で、医師と患者が安全で便利なオンライン環境で、相互作用できるようになったとのことです。これにより、診療所や病院への出向きが難しい患者や、遠隔地に住む患者でも、医師との対話や診断を受けることができるようになります。

女性の健康に関する問題は多岐にわたり、PMS、PMDD、妊娠、出産、更年期など、女性特有の疾患や症状があります。しかし、これらの疾患や症状については、なかなか話しにくいものでもあります。「Aidy」は、女性にとって安心して相談できる場所を提供することを目指しています。今回のオンライン診療の連携により、女性の健康に関する悩みや不安を抱える方々が、気軽に医師と話し合うことができ、早期に治療を受けることができるようになります。

前回の体温研究や今回の「Aidy」の事業を踏まえて、今後の事業展開等が気になるところであり、MEDITAへ取材を行いました。MEDITA代表取締役、田中彩諭理氏へのインタビュー内容を以下にご紹介します。

Q1.  「Aidy」開発経緯について
製品サービスの開発を経て、プラットフォームの開発はいつ頃からどのようなきっかけで、行われたのでしょうか?そして今後の目標は何でしょうか? 

MEDITA代表取締役、田中彩諭理氏
(出所:MEDITA)

田中氏:今回の「Aidy」に関しては創業当初からの構想で、私自身「性差医療とそこに関する心身の可視化、不便さの改善の手助け」をしたいという所から温めてきたものになります。今回STSのNEDO(シード期の研究開発型スタートアップに対する事業化支援)*1 を終えて弊社のウェアラブルデバイスで睡眠と体内時計に関する検知ができる可能性が新たに分かってきました。
ただし、デバイスに関して昨今の半導体の問題もあり、お届けするには少し時間が必要だろうという事で研究の中で得られた一部の知見を活かしながら、先に提供できるものはないかと考え、私が院生、社会人時代から思っていたサービスで個人向けに考えていたものを、人事の方や製薬会社の方、実際にそこで悩んでいる女性たちにヒアリングを重ね、22年の8月ころから母性看護や産業保健、女性の心理士さんと磨きつつ12月にローンチしたものになっております。
今後の目標としては、性差医療はまだまだ浸透していない中で、今後の医療の仕組みを考えつつも「自分自身で予防できる事や対処出来る事を増やす手助けをする」という事を目標にしています。

Q2.  プラットフォームの開発過程について
現行プラットフォームは当初の想定通りだったのでしょうか、それともピボットがあったのでしょうか?

田中氏: 構想通り、という事がどこまでを指すか…という事は難しいのですが、私の背景が臨床心理の専門職大学院や女性心理、そして精神保健などを経てIoTのベンチャーという事もあり、そこから現在まで得た知見だったり、時代背景を組んだものとなり、結果的に当初の構想にはあったもののローンチの優先度を変更させ、より皆様の手に今現在で届けられるようにするにはどうしたらいいか、課題は何かなどをじっくり考え発展させたものになっています。

Q3.  最後に御社のアピールをお願いできますでしょうか。

田中氏: 現在数社様で導入いただいて、「あってよかった。安心できる。」というお声や、実際に導入当日にいきなり体調不良になった方もいらっしゃって、「待ってました。」というお声を頂き、本当によかったと感じています。
私たちはOTC薬品や心理学の潜在的可能性もとても感じており、それに加えて私のもともと持っていたバックグラウンドがより生かせるようなサービスになりました。一方でお薬に関しての知識があまりないことも多く、弊社ではお薬の相談にも乗れる体制を構築しました。従業員様のニーズはかなり高いと感じており、今後はより幅広い企業様に使っていただけるように尽力していきたいと思います。

(出所:MEDITA)

以上、田中氏へのインタビューでした。田中氏には前回記事に引き続き取材させていただきありがとうございました。

田中氏自身がPMSやPMDD、片頭痛などに悩まされてきたこともあり、臨床心理の専門職大学院時代には、女性の役に立ちたいと考えて研究を行ってきたそうです。その経験を踏まえて、「全ての働く女性が少しでも楽になるサービス」を目指し、「Aidy」が開発されました。そして、今後はサービスを拡張し、より自分をセルフマネジメントできるサービスに発展させたいと考えているそうです。
多くの企業が「Aidy」のような、フェムテックを活用した女性向け健康経営を推進することで、女性にとって働きやすい職場環境が増えていくことに期待します。

(了)


【脚注】
*1 シード期の研究開発型スタートアップ(Seed-stage Technology-based Startups)に対する事業化支援: 
NEDOは、研究開発型スタートアップを支援する国内外のベンチャーキャピタルやシード・アクセラレーター等(以下、「VC等」という。)を認定し、そのVC等が出資するシード期の研究開発型スタートアップへ実用化開発助成を実施している。
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「研究開発型スタートアップ支援事業」 https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100091.html

【出典】
1)     一般社団法人 Femtech Community Japan 「ABOUT」 https://www.femtechjapan.org/about 
2)     株式会社MEDITA プレスリリース 「MEDITA、女性特化型健康経営プラットフォーム「Aidy」の提供を開始」 2022年12月14日、 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000021.000037148.html 
3)     株式会社MEDITA プレスリリース 「MEDITAが女性用健康管理プラットフォームAidyでオンライン診療の連携を開始」 2023年5月26日、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000022.000037148.html 

この原稿の執筆に際し、掲載企業からの謝礼は受けとっていません。


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