2023/06/27

米国eHealthジャーナル第90号

AIドクター企業のBabylon、上場廃止へ 

VC投資・M&A・決算, Babylon Health, 医療コミュニケーション支援, ジャーナル第90号

3,450万ドル規模の融資を受けるローン契約をAlbaCore Capital と締結

人工知能(AI)ドクターとして機能するトリアージ・チャットボットサービスの開発で知られる英国拠点のBabylon Holdings Limited(以下、Babylon)は5月10日、2023年第1四半期決算を発表するとともに、上場を廃止する計画を明らかにした。Babylonは、トリアージ・チャットボット・アプリを手掛けるBabylon Healthの持株会社。AIドクターは、スマートフォンアプリを使ってユーザーが症状を伝えると、それを分析し、受診の必要性の有無なども含め、医療の「診断」にまで踏み込むような回答をしてくれる。結果によって、テレヘルスを利用した医師のバーチャル診療を推奨したり、医療機関での受診予約まで行う。

Babylonは2021年に特別目的買収会社(SPAC)であるAlkuri Global Acquisitionとの合併を通じてニューヨーク証券取引所(NYSE)への上場を果たした。Babylonによるとプロフォーマベースでの上場当時の企業価値はおよそ42億ドルだった。

NYSEでのデビューから2年足らずでの非公開化計画発表を受け、同社の株価は急落した。

Babylonは、同社の上場廃止計画をサポートするために、AlbaCore Capital から最大3,450万ドルの融資を受けるローン契約を締結したことも併せて発表した。Babylon は2022年9月時点で、上場企業に対し1ドル以上の平均終値維持を要請する規則を30営業日連続で非遵守であったとしてNYSEから警告を受領していた。今年に入り、BabylonのCEO兼創業者のAli Parsa氏は一部メディアとの対談において、SPACとの合併を通じて会社を上場させたことは間違いだったと話していた。

上場前のBabylonは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行を背景として、デジタル・トリアージやバーチャル診療の需要が大きく拡大したことにより、その恩恵を受けた。同社によると、2020年には売上が5倍に拡大、2021年も4倍の売上成長を達成した。Ali Parsa氏は対談において、「Babylonはこの急成長を理由として、米国での支援基盤を構築することなくSPACとの合併により上場を急ぐという選択を余儀なくされた」と語っていた。一方で、COVID-19にともなう一時的な需要増はその後落ち着き、デジタルヘルスをめぐる市況も大きく変化。先行き不透明な経済環境の中で、あらゆるスタートアップが苦境に立たされている。

Babylonの2023年第1四半期の売上は、主に米国で展開する「価値に基づくケア(Value Based Care、以下VBC)」事業と同社が呼ぶ保険のサブコントラクト事業の売上増により、前年同期の2億6,640万ドルから3億1,110万ドルに拡大した。純損失は前年同期の2,910万ドルから6,320万ドルとなり赤字幅が拡大した。Babylon によると、前年同期には株式公開に関連する7,880万ドルの利益が含まれている。調整後EBITDA(金利、税金、償却前利益)は前年同期の8,260万ドルから4,580万ドルに減少した。

トリアージ・チャットボットによるオンライン症状チェックアプリとしてスタートした2013年設立のBabylon は、拠点を置く英国では「GP at Hand」と呼ばれるアプリを介して、チャットボットによるデジタル・トリアージと国民保健サービス(NHS)の医師によるバーチャル診療サービス、ケアセンターでの対面診療を組み合わせたハイブリッドケアを提供している。同社は上場以前から、世界最大のヘルスケア市場を擁する米国でのビジネス拡大に照準を合わせ、VBC事業の拡大に努めてきた。


出典:Babylon

(了)


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