2023/03/02
メンタルヘルス・精神科医療におけるデジタル技術の活用(第3回)
アルコール依存症と治療用アプリの開発
臨床医, 物質使用障害, 日本, デジタルセラピューティクス, 医療機器, 疾病管理・患者モニタリング
デジタル療法の普及によるデータ蓄積が研究や政策の立案促進へ貢献
アルコール依存症
アルコールの過度な消費は、さまざまな問題を引き起こします。具体的には、事故を引き起こすリスクの増加や、職場の生産性の低下、医療および精神衛生コストの増加、犯罪や暴力の発生率の上昇と関連しています。日本におけるアルコール依存症の疑いのある方は約26万人、治療を受けている患者さんの数は約4万人前後、そして過去に診断基準に該当した人は54万人を超えると言われています。さらに、当該診断が疑われる人のうち、専門治療歴があるのは22%である一方で、1年以内になんらかの理由により内科を含む一般医療機関の受診歴があるのは83%と、トリートメントギャップが大きいです。1)
アルコール健康障害対策基本法や、新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン2)では、専門治療機関への受診は少ないものの、一般の医療機関には受診をしている経緯から、内科での早期介入を推進されています。しかし、精神療法は習熟や実施時間の確保などの困難さから、施行できる施設は限られるでしょう。さらに物質依存者への偏見も伴い、普及を妨げている状況にあります。
例えば、病状が深刻化した数年の後に受療を開始する場合、治療は多くの場合長期にわたります。私自身の経験では、実際の臨床現場でも非精神科医として専門機関に紹介するケースはよく経験したものの、精神科医としてその紹介を外来の初診として受け取るケースは一般の精神科医療機関では稀でした。多くは精神科救急の対応を要するケースとして受診されるか、気分障害などの他の精神疾患を疑われて受診され、精査や診療の経過中に併存症として見つかり治療を開始されています。
現在行われている薬物療法や、精神療法の一つである行動療法は、減酒や断酒に役立つことが示唆されています。特に薬物療法は、行動的介入と組み合わせて行うことで、より効果的であることが報告されています。3)
アルコール依存症の精神療法は多岐にわたり、なかでも有効性が高いとされる治療法の一つとして、動機づけ面接に基づいた介入法があります。これらに、セルフモニタリング、危険なアルコール使用における状況の認識の向上、ソーシャルスキル訓練なども含めて行うことで、患者さんの特性に合わせて治療効果を最大限まで引き出すことを目指します。
今回紹介する疾患分野でも、インターネットやモバイルヘルスによる介入で、これらの課題に取り組む動きがあります。
デジタル療法による介入は、治療後のアルコールによる危険な使用頻度の減少、断酒や減酒の継続に効果的である可能性が示唆されました。4)これらの導入により、治療の質を維持した上で、時間や人的労働コストの低減への寄与も期待されています。
非専門医療機関での使用を意図した治療用アプリ
日本での受療の敷居を下げて早期の治療介入を増やすために、専門医療機関のみならずアルコール依存症であっても軽症者には、内科でも治療が可能となるようなデジタル療法の開発や臨床試験へ取り組む企業があります。それが株式会社CureApp(以下、CureApp社)のアルコール依存症向け治療用アプリです。5)病状の改善や維持に有用な継続的ケアを従来よりもさらに強固に行うことで、自立した地域社会生活の支援に役立つ可能性を秘めています。
同社は、治療ガイドラインで推奨されている手法をベースに、プログラム医療機器としてはクラスⅡに該当するアプリを開発中です。アプリを治療として導入することで、診察時以外の患者さんのケアを個別に補強します。また、既存の心理社会的治療の提供方法に抵抗を示す患者さんにも、手軽に受けられる治療方法の一つとして提案できるでしょう。また、現時点では保険診療報酬にならないものの治療的観点から施行が望ましいケアを、時間的・肉体的コストなどを抑えた上で行えることも利点の一つとして挙げられるでしょう。
開発状況
CureApp社のアプリは、2020年よりフィージビリティ試験として受容性の確認を開始し、良好な飲酒量や頻度の低減を認めました。2021年からは、予備的臨床試験として、内科病院3施設において多施設共同非盲検ランダム化比較試験が開始され、現在は主要評価項目のデータ収集が完了した段階にあります。6) 2023年には、GCP下での検証的治験を実施され、今後はその結果をもとに薬事承認や保険適用につなげられる予定です。7)
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