2023/05/11

メンタルヘルス・精神科医療におけるデジタル技術の活用(第4回)

摂食障害に対する診療用アプリの運用と現状

疾病管理・患者モニタリング, 患者データ・疾病リスク分析, デジタルセラピューティクス, 医療コミュニケーション支援, 臨床医, 日本

(出所:Shutterstock)

セルフモニタリングによる精神療法への期待

摂食障害とその治療
摂食障害は、異常な食行動や体重のコントロールにより特徴づけられる精神疾患の一つです。他の精神疾患と比べて稀な疾患という印象をもつことがあるかもしれません。しかしながら、精神疾患の中では死亡率が最も高く、低血糖や電解質異常、心不全のような身体合併症をはじめ、他の精神的な健康問題としばしば併存します。1)発症の要因は諸説あるものの、現時点では要因は単一ではなく、発達の重要な時期における遺伝的因子や環境因子などの複数の要因が複雑に作用すると考えられています。

治療は心理社会的な介入が主であり、薬物療法は補助的な役割にとどまります。しかしながら、重度(BMIが15未満)の神経性やせ症となると、体重減少や栄養状態の悪化から、重篤な身体合併症及びそれに伴う生命維持の危険性が高まることから、まずは栄養摂取療法を優先します。体重の増加とともに精神療法にも注力していきます。精神療法は、摂食障害用に改良された認知行動療法をはじめとした、行動変容に焦点を置いた治療からなります。これらは、体重の回復の改善促進と、身体的苦痛、摂食障害そのものの症状の軽減につながります。しかし、摂食障害は未診断のままであることも多く、診断がつき支援が必要な人でもその支援を受けない傾向にあります。近年ではこのような背景から、認知行動アプローチにもとづいたインターネットベースの自助介入という、従来とは異なった手法が注目されるようになりました。未治療の患者さんよりも効果を認められたという報告もされるようになり2)、インターネットのみならず、モバイルヘルスの使用に関するエビデンスの検討もなされるようになりました。3)

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その中でもセルフモニタリングを行うことは精神療法の一つとして重要な役割を果たす、と言われています。海外を含め、健康管理を目的としたアプリは数多く認められるようになりました。しかし、摂食障害の患者さんを対象としたアプリはまだ少ないのが現状です。

摂食障害に対するアプリとその診療への活用
通院での摂食障害の治療は、食生活を自己管理で行いますが、治療経過中に通院を中断することも多くあります。摂食障害に対するアプリを患者さんが使用できれば、アプリに記録することで正確に内容や経過をモニタリングし、外来診察での治療戦略調整に活用することができます。記録する内容としては、食活動のスケジュール、実際の活動記録(食活動、食事以外の活動、一日の自己評価) 等となります。
また、医療機関側がこれらの活動記録を一元化して確認が可能で、さらに食事に関する入力データをグラフ化できる機能などもあれば、経時的な変化の把握に役立ち、診療へ活用することができます。

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日常の外来診療では、患者さんがメモで記録した内容を伝えてくれることがあります。その都度、診療録に必要事項を記載しては経時的な変化を正確に追えるよう努めていますが、口頭や書面ベースではその正確性や具体性において、限界を感じる場面があります。こうしたアプリのデータを日常診療で利用できれば、食行動以外の心理的な問題や身体治療にあてる時間も増え、摂食障害の診療の質はさらに向上することが期待できるかと思います。

また、患者さんがつけた記録に、医療者からのリアクションやコメントを記入できる機能があり、有効に取り入れることができれば、セルフモニタリングへのモチベーションを維持し、脱落者の減少を抑止する効果にもつながる可能性があります。

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