2023/05/18

臨床医が紹介する日本のスタートアップ技術 (第30回)

自分らしく彩りのある人生を支える、NTT PARAVITA 【前編】

疾病管理・患者モニタリング, 日本, 患者データ・疾病リスク分析, 臨床医, デジタルセラピューティクス, 睡眠障害

(出所:Shutterstock)

ICTを活用して睡眠課題の解決に取り組む

みなさんは、睡眠に課題はありませんか?忙しくてなかなか睡眠時間が取れない、いろいろ悩むことがあって寝付けないなど、多くの方が睡眠に課題を感じているのを実感します。

新型コロナウイルス感染症の後遺症として、睡眠障害を訴えるケースもあります。現在コロナ禍もかなり落ち着いてきて、日常を取り戻そうという状況になりましたが、後遺症は少なくとも2か月以上持続し、長期に悩まされることもあります。1)

私は、睡眠障害のひとつである、睡眠時無呼吸症候群の診療を行っていることもあり、睡眠を管理できるスリープテックに興味を持っております。私自身、Oura RingやApple Watchを装着し、自身の睡眠状況をモニタリングして睡眠の質を向上させるよう管理しています。先日には、LSMIP内記事にもスリープテックに関する座談会記事が掲載されており、近年スリープテックが話題になっているのを感じます。また、厚労省では「健康づくりのための睡眠指針2014」として睡眠12箇条2) を示し、睡眠の重要性を唱えています。

このように睡眠の重要性が注目される中、ICTを活用して睡眠課題に取り組んでいるのが、NTT PARAVITA株式会社(以下、「NTT PARAVITA」)です。今回は同社が提供するサービスについて取り上げます。

(出所:NTT PARAVITA)

NTT PARAVITAは、地域社会を元気にすることをめざし、ICTを用いた未病状態の発見に資するデータ提供を行うことで健康増進のサポートをはかる、へルスケアサービスを提供しています。同社は、西日本電信電話株式会社(以下、「NTT西日本」)とパラマウントベッド株式会社(以下、「パラマウントベッド」)による合弁企業として、2021年7月に創業しました。NTT西日本はかねてよりICTを活用して地域の抱える社会課題の解決に取り組んでおり、睡眠の視える化を目的としたIoTデバイスによる高齢者のバイタルデータの収集・解析等について成果をあげてきました。一方、パラマウントベッドは、医療・介護ベッド及びマット型睡眠センサーで国内トップシェアを誇り、医療・介護事業者に対して睡眠センサーを提供してきました。この2社のテクノロジーを掛け合わせ、「睡眠」を軸としたヘルスケアサービスを展開しています。

NTT PARAVITAのサービスにおいて使用される、パラマウントベッド製シート型睡眠センサー「Active Sleep ANALYZER」は、寝具の下に敷き、センサーが感知した体の動きなどから在床や離床を判断することができます。病院や介護施設などでは、徘徊や転倒防止のためにベッド脇にセンサーマットを敷いているのを見かけますが、ベッド下に敷くことで早期発見が期待できます。また、体の動きだけでなく、睡眠や覚醒の判断、心拍数や呼吸数なども測定してくれます。

「Active Sleep ANALYZER」 (出所:NTT PARAVITA)

 これまで寝具と一体化したセンサーが開発、販売されていましたが、寝具と一体化することにより高額となってしまい、また使用用途も限定される印象でした。しかし、このシート型であれば、お子様から高齢者まで幅広い層で使用できそうであり、利用の幅が広がるのではないかと期待しています。また、一見スリープテックのように見えませんが、様々な睡眠課題解決やデータ取得に大いに活用が期待されます。

NTT PARAVITAでは、以下3つの事業を展開しています。

①    自治体向けサービス「ねむりの見守り」
地域住民の方に、睡眠センサーを配布して睡眠データを取得。その睡眠状況を客観的に把握してもらい、データに基づいた睡眠改善指導を行っています。

(出所:NTT PARAVITA)

②    調剤薬局向けサービス「ねむりの窓口」
調剤薬局向けにサービスを展開しており、かかりつけ薬局に来られた患者さんに睡眠センサーを貸出し、その睡眠レポートや説明方法を薬局に指導して患者さんに自身の睡眠状況を把握してもらいます。このサービスは現在、薬局グループが乱立する中での差別化という点で調剤薬局も積極的に参加してくれる可能性があります。

(出所:NTT PARAVITA)

③    健康経営支援サービス「ねむりのジム」、「ねむりのあれこれ」、「ねむりの応援団」
「ねむりのジム」は、睡眠に着目したモデル実施プログラムで、専用アプリの睡眠センサーを使用し、特定保健指導モデル実施の基準である「3ヶ月間で腹囲-2㎝・体重-2kg」以上の改善をめざします。興味深いことに、成果報酬型での提供のため、企業や保険組合は、目標を達成した人数分のみの費用で特定保健指導が実施可能とのことです。

(出所:NTT PARAVITA)

「ねむりのあれこれ」では、導入した企業・団体の従業員の方に睡眠センサーを配布し、睡眠データを計測します。取得したデータをもとに睡眠のパーソナルトレーナーが具体的なアドバイスを行い、睡眠改善をサポートします。
プログラムに参加される従業員の方は、事前のアンケートの実施と14日間の現状計測期間を設け、その後に良い睡眠をとるための知識を醸成するセミナーを受講してもらいます。その後10週間、NTT PARAVITAに所属する睡眠改善インストラクター等の専門家がねむりのパーソナルトレーナーとして伴走。定期的な睡眠レポートの提供のほか、専門家による具体的なアドバイスを受けることができます。 


「ねむりのあれこれ」 出所:NTT PARAVITA

また、NTT PARAVITAは新しいサービス「ねむりの応援団」を世界睡眠デーであった今年3月17日にリリースしています。3) この新サービスは、健康経営に取り組む企業の従業員を対象に、1名あたり480円/月(税込528円)で、睡眠に関するセミナーや、LINE、Zoom、電話などでねむりのパーソナルトレーナーに睡眠相談が何度も受けられるものです。日々ぐっすり眠れない状態が続くことこそ、未病の状態であるという考えにより、その状態を改善するため、この新しいサービスを提供することになったそうです。

様々なサービスを提供するNTT PARAVITAの独自性や、今後の事業展開等が気になるところであり、取材を行いました。次回の後編では、パラマウントベッドにてNTT PARAVITAの事業支援を行っている、水上渉氏へのインタビュー内容をご紹介します。

(次回に続く)


【出典】
1)    厚生労働省、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き 別冊 羅漢後症状のマネジメント 第2.0版」、 Oct 2022、 https://www.mhlw.go.jp/content/000952747.pdf 、(参照2023-04-25)
2)    厚生労働省、「健康づくりのための睡眠指針2014」(平成26年3月)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf 、(参照2023-04-25)
3)    NTT PARAVITA株式会社 プレスリリース 「従業員の睡眠改善をまるごと請け負う健康経営サービス「ねむりの応援団」を3月17日(世界睡眠デー)に提供開始」  2023年3月17日、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000085335.html 

この原稿の執筆に際し、掲載企業からの謝礼は受けとっていません。


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